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「どう?レッドさん、すごいでしょー」 「おー…確かにこりゃ壮観だわ!」 悪の組織フロシャイムのヴァンプ将軍にいつもの公園に呼び出された神奈川県川崎市のご当地ヒーローである 天体戦士サンレッドは<それ>を見上げて彼にしては素直に賞賛した。 ちなみに今日のTシャツの文字は<スパロボK4月2日発売>である。 「しかしよヴァンプ。これもフロシャイム脅威の科学力ってやつか?」 「あ、違う違う。雑誌の懸賞で当たったの」 「…懸賞」 にこにこ笑うヴァンプ将軍を尻目に、レッドはどよ~んとした顔で<それ>をもう一度眺め回した。 子供達が駆け回る何の変哲もない公園に鎮座する異形の物体。 それは、巨大ロボットであった。 天体戦士サンレッド ~レッド危うし!フロシャイム戦慄の秘密兵器! 「いやー、こんなのが当たるなんて、ホントにヴァンプ様ツイてますよー」 「これも日頃の行いがいいおかげですね!」 戦闘員1号・2号も上機嫌だ。 「日頃の行いって、お前ら世界征服を企む悪の組織だろうが…それで、このロボに名前はあんのか?」 「名前ですか?」 「おう。ガン○ムとかマジ○ガーとかゲ○ターとかよ、そういうイカした名前だよ」 「あ、じゃあこれなんてどうです?<ヴァンプレイオス>!なんせヴァンプ様が当てた懸賞ですしね」 「そうそう。それでなくてもヴァンプ様は僕ら川崎支部の代表ですもん!」 「もー、1号も2号もおだてないでよ~」 そう言いつつ、満更でもなさそうなヴァンプ様である。レッドはそれを尻目にポツリと呟く。 「ヴァンプレイオスって…明らかにアレのパクリじゃん…」 詳しくはバンプレイオスで検索を。それはともかく。 「よーし、じゃあ早速ヴァンプレイオス起動させちゃおっか!あ、レッドさんも是非乗ってくださいよ!」 「何処の世界に敵対してるヒーローを大喜びで自分とこのロボに乗せる悪の将軍がいるんだよ…ま、いいや。 巨大ロボってのも興味あるしな!」 そしてコクピットに乗り込む四人だったが、そこで気付いた。 「あの…ところでこれ、どうやって操縦するんでしょう?私、機械には弱くて…」 「マニュアルくらいあんだろ?ちょっと見てみろよ」 「あ、これじゃないっすか?」 「あ、どれどれ?」 マニュアルとにらめっこを始めるヴァンプ様だが、すぐにウーウーと唸り始める。 「専門用語多くて何が何だか分かんない…<縮退炉>とか<トロニウム>とか…ちょっとレッドさん、申し訳 ないんですけど見ていただけます?」 「お前、どんだけ俺に頼る気だよ…ほれ、マニュアル貸せよ」 分厚いマニュアルを受け取り、顎を撫でながらフンフンホーホーと納得した様子のレッド。 「これあれだ。スイッチさえ入れれば後は音声だけで自動操縦できる簡単モードがあるからそれでいけよ」 「へー、そんな簡単に巨大ロボを操縦できちゃうんだー!」 「ほんとはちゃんとマニュアル操作もできるらしーけどよ。初心者ならこっちの方がいいだろ」 「ええ、ありがとうございます!…クックック!ではゆくぞ、ヴァンプレイオス!愚かな人間共にお前の力を 見せ付けてやるのだ!」 悪モードに入ったヴァンプ様は高らかに叫ぶ。川崎市はこのまま絶望の炎に呑まれてしまうのか!? サブパイ席でタバコ吸ってる場合じゃないぞ、我らがサンレッド! 「誰かー、ひったくりよ!捕まえてー!」 若い女性が叫ぶ。その傍らにはへたり込んだお婆さん。 「へっ!ババアがこんな立派なモンぶら下げてんじゃねーよ!」 お婆さんの荷物を奪った男は下卑な笑みを浮かべながら逃走する――― その身体が、突如宙にぶら下げられた。 「え…な、なんだよこれ!?」 『もー、ひったくりなんてダメでしょ!今から交番行くから、きっちり反省しなさい!』 その巨大な指先でひったくりを摘み上げたヴァンプレイオス。そのパイロットたるヴァンプ様はひったくりに 向かってプリプリ怒るのだった。 その足元ではバッグを取り返してもらったお婆さんが、掌を擦り合わせてヴァンプレイオスを拝んでいた。 高い煙突の上に登ったはいいものの、降りられなくなって泣いている子供がいた。 「誰かー、ウチの子を助けてー!」 母親が必死に助けを求めるが、野次馬達もどうにも手が出せない。高さが高さなだけに、下手に助けにいこう ものなら、子供と一緒に落ちてしまうかもしれない。 「奥さん、今レスキュー隊呼んだから!少しだけ待ってて!」 「少しだけって…あの子は今も怖い思いしてるんですよ!?もういいわ、私がいきます!」 「ダメだよ、あんたまで落ちたらどうするんだ!」 と、その時。大きな手が伸びてきて、優しく子供をその掌の上に乗せたのだった。 『ホラホラ、もう大丈夫だから泣かないで。これからはこんな危ないことしちゃダメだよ』 優しい口調で子供を諭すヴァンプ様。救助された子供は、母親としっかり抱き合うのだった。 それを見つめるヴァンプと戦闘員の顔も、とても穏やかだった。 「お前…何やってんだよ」 レッドは苛々した様子で貧乏揺すりしていた。ヴァンプはきょとんとした顔で答える。 「何をって…ひったくり捕まえて、子供を助けただけですよ。何か問題でも?」 「大ありだ!これは<悪の巨大ロボット>だろうが!何を正義側みてーな運用してんだよ!?もっとほら、 人間をゴミのように踏み潰したり、高層ビルを破壊したり、色々やることあんだろーが!」 「そっ…そんなことしたら犯罪じゃないですか!」 「何度も言うがてめーら悪党なんだろ!?世界征服企んでるんだろ!?もっとそこんところ自覚して悪行に 精を出せよ!」 「…レッドさんこそ正義の味方なのに、何でそんな恐ろしいことをサラっと言っちゃうんですか…?」 「俺のことはどーでもいいだろ!今はお前らの話をしてんだよ!」 「うーん…悪っぽい運用というと…あ、そうだ!次のレッドさんとの対決はこのヴァンプレイオスですれば いいじゃないですか!」 ポンと手を叩くヴァンプ様である。 「そっかー。正義のヒーローと闘ってこそ悪の巨大ロボですもんね!」 「これで俺達もレッドさんも己の存在意義を失わずにすむじゃないっすか!」 1号と2号も同意する。レッドはやれやれと溜息をつきながらも、迫る闘いの予感に拳を握り締めた。 「全くおめーらは本当によー…ま、確かにいつもよりは白熱した闘いになりそうだな…おっしゃあ!次回は 俺も久々に戦闘服を着るとするか!」 「え!?じゃあついにレッドさんの本気が見られるんですね!それだけで懸賞を当てた甲斐がありますよ! そうだ、究極形態ののファイアーバードフォームも用意しといてくださいよ!何せこのヴァンプレイオスは 強力ですからね!」 ちなみに普段のレッドは対決でもTシャツに半ズボン、サンダルが基本である。 「フハハハハ、サンレッドよ!覚悟するがいい、次こそはヴァンプレイオスが貴様を葬ってくれるわ!」 高らかに響くヴァンプ将軍の哄笑。負けるな、僕らのサンレッド! 「…で?ヴァンプレイオスはどうしたんだよ?」 三日後。いつもの公園にて対決に呼び出されたレッド(戦闘服着用。足元にはファイアーバードフォームを 入れたダンボール箱)は、MK5といった有様でヴァンプ様と戦闘員を正座させていた。 「えっと…その…寄贈しました…」 「寄贈…」 「だって、しょうがなかったんです!あれすっごい税金かかるし、本部も経費としては認められないなんて 融通利かせてくれないし!」 「ねー!駐車場借りるのだってタダじゃないですし!」 「燃料代だってムチャクチャですよ!?ウチの家計じゃとても払えないっていうか…」 「言い訳はいいんだよ!それで、何処に寄贈したんだ!?」 「あの…正義の組織<アロハ・パンパース>に…」 「アロハ・パンパース…」 「知りませんか?巨大ロボで世界を守ってる皆さんですよ!そこの若手パイロットの<タテ・リョウセイ> くんとそのお友達が使ってくれることになったんです!リョウセイくん、これで世界平和を守ってみせるぜ って、すっごいやる気でしたよ。若いっていいですねー。ははは…」 「…………」 この怒りを、どんな言葉で表現すべきだろう?レッドはヴァンプ達にゆっくりと近づいていく。 「あ、レッドさん、どうしたんです、そんな怖い顔して…」 詳しくは語らない。ただヴァンプ将軍と戦闘員1号・2号はこの日から一週間、生死の境を彷徨ったという 事実だけは記しておこう。 天体戦士サンレッド――― これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
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第一巻 ~全選手入場!~ ~太陽の戦士・出陣~ ~天体戦士サンレッドVS星熊勇儀~ ~一回戦第一試合・決着~ ~第一試合終了、そして~ ~決意~ ~二回戦迫る~ ~死闘開幕~ ~天体戦士サンレッドVS風見幽香~ ~勝ち名乗り~ 第三巻
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いつものようにいつもの如く、神奈川県川崎市。 「―――この世界には<幻想郷>と呼ばれる、夢想と空想を具現化し、具象化した楽園が存在します」 道端を歩きながら語るのは、真っ赤な帽子に真っ赤なスーツ、日傘を差した赤ずくめの男――― 彼の名は望月ジロー。黒髪黒瞳の端正な顔立ちだが、口元には鋭い牙が覗く。 彼こそは望月コタロウの兄にして<銀刀>と恐れられる、既に百年以上の時を生きた力ある吸血鬼だ。 「へー」 気のない相槌を打ったのは赤いマスクだけど格好はいつものTシャツな我らのヒーロー・サンレッド。今日の文字は <東方赤太陽>である。彼はジローに呼び出され、むさ苦しくも男二人で歩いているのだ。 「其処は<神隠しの主犯><遊惰なる賢者>と称される伝説の大妖怪<八雲紫(やくも・ゆかり)>が創り上げし、 人間もそれ以外も、全てを受け入れる理想郷―――鬼に天狗に河童に妖精、果ては神々に至るまで、何でもござれ の百鬼夜行にして百花繚乱」 「ほー。えらく詳しいじゃねえか。行った事でもあんのか?」 「いえ…私を吸血鬼へ転化させた<闇の母(ナイト・マム)>から聞いた話です。彼女は八雲紫とも面識があったそう ですし、幻想郷をその目で見た事もあると言ってましたが、残念ながら私自身は幻想郷やその住人と関わった事は ありません」 「あっそ。しかしそんな妙な奴と知り合いだったとか、お前の吸血鬼的な意味での母親ってすげえ大物とか?」 「…そうですね。大物なのは勿論ですが、素晴らしい女性でした…」 過去形だった。口調もやたら暗い。地雷を踏んだか、とレッドさんは顔を曇らせるが、ジローは微笑んだ。 「気にしないでください。彼女の残した尊き血は私の中で生き続けている…コタロウの中でも…」 「そうか…その、何だ。いい女だったんだろな、さぞや。俺も会ってみたかったもんだ」 「ははは。ではコタロウを女の子にして、あの性格のままで10年ほど成長した姿を想像してください。それで大体の所は 合ってますよ」 想像してみた。レッドさんはうわー、とばかりに両手を上げる。 「とんでもねえトラブルメーカーだったんだろうな、そいつは…」 「彼女の名誉のために否定したい所ですが、残念な事に正解です…おっと、話が逸れましたね。幻想郷の事ですが… 何でもござれというからには、当然ながら吸血鬼も存在するのです」 「ふーん。けどよ、そんな話されても俺には関係ねーだろ。俺は<神奈川県川崎市>のヒーローだぞ?幻想なんたら の事なんざ知らねーっての。何かあるならそこの御当地ヒーローに解決してもらえばいいじゃねーか」 「確かに幻想郷には<博麗の巫女>と呼ばれる異変の解決屋がいるそうですが、今回はここ川崎市に関わる事なの です―――だから、あなたにも御足労願いました」 「あん?」 「いざという時には―――どうか、力を貸していただきたい」 ジローは深々と頭を下げる。その神妙な面持ちにレッドさんも態度を引き締めた。 「…ヤベー事が起きるのか。川崎市に」 「ヤバい、どころの話ではありません。下手をすれば―――神奈川県が、地図から消えます」 大げさだとは思わないでください。ジローはそう言った。 その身体は小刻みに震えている。根源的なまでの恐怖―――そして、少なからぬ畏敬に。 「幻想郷に存在する吸血鬼の中でも最強と謳われる紅き月下の女帝…レミリア・スカーレット。<紅き悪魔の館> ―――紅魔館(こうまかん)に住まう彼女は、齢こそは五百年と、吸血鬼として見れば驚くほど時を重ねたというわけ ではないのですが―――その力は、数千年を生きた古き者達にも決して劣るものではありません」 「でも、お前だって<銀刀>なんて呼ばれてる吸血鬼界の大物だろ。それでも勝てないくらい強えーのか?」 「無茶を言わないでください。私などレミリアの前では路傍の雑草にもなりませんよ。彼女が本気なら、一瞬で血液の 一滴すらも残さず消し飛ばされて終わりです。彼女に匹敵する吸血鬼となると、原初にして史上最も偉大なる吸血鬼 <真祖混沌>直系血族たる<四神>―――或いはかのヘルシング家に仕える究極の血統。彼の前では神ですらも 一山幾らの有象無象。世界が終れど、尚語り継がれるであろう闇夜の伝説。絶大にして絶対の吸血鬼・アーカード卿 くらいでしょうね」 「よく分かんねーけど、とにかくすげーんだな。で…ここまでの話の流れから、予想できるけどよ」 ふうーっと、レッドはタバコの煙を宙に漂わせる。 「…来るんだろ。その<幻想郷において最強の吸血鬼>とやらが、川崎に」 「正確には、既に来ています。己の忠実なる従者を一人だけ連れて…ね」 ジローは、ただでさえ鋭い目付きを更に尖らせ、宣告する。 「大吸血鬼レミリア・スカーレットは今―――神奈川県川崎市にいる」 都心でもない川崎に現れた、恐るべき吸血鬼レミリア・スカーレット。彼女は何故川崎に?その狙いは? 予告しよう―――川崎市に、血の雨が降る! ついでに、可愛い女の子達が恥ずかしい液体を垂れ流すムフフな展開もあるので男性読者はお楽しみに! 天体戦士サンレッド ~血に染まる川崎!真紅の大決戦 「あ…それはそうと、レッド。申し訳ありませんが、私からもう少し離れていただけませんか?」 「あん?何でだよ。自分から呼び付けといて離れろとか、身勝手なヤローだな、おい」 「申し訳ない。けれど吸血鬼の私では、太陽の戦士であるあなたの傍にいるだけで体力が削られてしまうのです」 「え、そうなのか?コタロウとかは全然平気みてーだけど…」 「あのバカ弟はそうでも、私はそうではないのです」 それは、どこか含みを持たせた言い方だった。とにもかくにもレッドさんが言われた通りに距離を取ったのを見計らい、 ジローは話を続ける。 「吸血鬼と一口にいっても、属する血統によって性質や弱点はそれぞれなんですが…私の場合、吸血鬼が苦手そうな ものは大体弱点なんです。今だって日光がきついから、日傘を差してるでしょう?」 「んな<悪そうな奴は大体友達>みてーに言うなよ…つーかお前、そんな弱点多くて大丈夫なのか?コタロウなんて ニンニクたっぷりのラーメンもガツガツ食うし、クリスマスにはバンバン聖歌を唄いまくってたぞ。同じ兄弟だってのに、 何でそうも違うんだよ」 「…その辺は色々事情がありまして。出来れば、触れない方向で」 「事情、ね。お前やコタロウって随分と謎が多いよな。軽々しく話せねーってんなら訊かねーけどよ」 「申し訳ない。ただ…コタロウとは、そういった事は気にせずに仲良くして頂ければありがたい」 「何だよ、改まって。そんな事言ってるとフラグが立っちまって早死にすんぞー?ま…あのバカが懐いてくれるウチは、 俺も面倒くせーけど面倒見てやるよ。ヒーローは子供の味方だからな、ははは」 言い草はぶっきらぼうだが、レッドさんなりの優しさを感じたジローは微笑む。 「なら、どうか末永くよろしく。私も、いつまでもあいつの傍にいてやれるわけではないでしょうから」 「だから、そういうセリフ言うなって…それよか、今はレミリアだかれみりゃだかの事だろ?」 「おっと、そうでしたね…先に話した通り、彼女は本来<幻想郷>で暮らしている。其処は強力な結界によって外界から 完全に隔離されています。気軽に外界へ…とはいかない。その結界を越えて、彼女は何を目的としているのか? 人間達の世界で何をしようとしているのか?彼女の動向は現在、あらゆる吸血鬼の注目の的なのです」 遂に吸血鬼による世界征服に乗り出したか?人間達を億単位で家畜にするつもりか? 世界を己の血族で埋め尽くそうというのか?憶測が更に憶測を呼び、月下の世界は混乱に陥っている。 「流石にこの段階でちょっかいをかけようという血族もいないでしょうが…レミリアの出方次第では、黙っていない連中も 必ず現れる。レミリアも、それを排除するために力を行使する事を厭わないでしょう」 吸血鬼にとって敵を殺すとは、当然の選択肢なのですから―――そう語るジローの瞳は、どこか自嘲めいていた。 「そして、川崎は吸血鬼が跳梁跋扈する戦場と化す。そうなればコタロウやミミコさん―――あるいは、あなたの恋人の かよ子さんや、友人であるヴァンプ将軍にも危害が及ぶかもしれません」 「…そりゃあ、胸クソ悪い話だな…いや、勘違いすんな!ヴァンプは別に友達じゃねーんだからな!」 これが噂のツンデレッドである。 「そんな事にならぬよう、私とていざとなれば我が身を捨てて闘う覚悟はありますが、覚悟だけでどうにかなる相手では ない―――必要なのは純然たる力です。彼女と闘えるだけの力です」 すっと襟を正して、ジローはレッドを真っすぐに見つめた。 「サンレッド―――あなたの力を貸して下さい。この川崎市においてレミリアと真正面からやり合えるのは、太陽の戦士 にして最強のヒーローであるあなたしかいません」 「へっ…頼りにされたもんだな、俺も」 そんな物騒な話を聞かされたというのに、レッドはどことなく嬉しそうでさえあった。 彼は―――余りにも強すぎる。故に―――彼は闘いに飢えている。 無比の力を持っていながら、それを振るうべき敵がいない。 無双のヒーローでありながら、それに匹敵する敵がいない。 無敵の存在だからこそ―――文字通りの意味で敵がいない。 その葛藤は、彼を常に蝕んでいる。だからこそ、強敵の出現は彼にとって喜びですらあるのだ。 川崎市が危機に晒されているという懸念もあるが、己の力を限界すら越えて引き出すような血沸き肉踊る闘いの予感 に、サンレッドは胸を焦がすような期待をも感じている。 それが、サンレッドの危うさであり―――頼もしさでもあった。 「任せとけ。そのレミリアが最強の吸血鬼だろうが何だろうが…悪巧みしてるってんならこの俺が、社会人の心得って もんを教えてやるぜ!」←はい、そこのあなた!ヒモのくせにとか言わないで! その時である。すぐそこにあったコンビニのドアが開いて、<ありがとうございましたー>という店員の声を背に、 ビニール袋を手にした一人の幼女が出てきた。 風に溶けそうな程に透き通った蒼い髪。豪奢ではないが品よく丁寧に仕立てられたピンクのドレス。 背中には、夜を具現化したような漆黒の羽根。 10歳になるかならないかという幼子だったが、発散する気配はそんな生易しいものではない。 誰もが見惚れるような愛らしい顔立ちだが、そこには幾星霜を経て研磨されたような絶対的なカリスマがあった。 サンレッドもジローも、瞬時に理解した。彼女の口元にあるはずの牙を見るまでもない。 彼女こそが月夜の女帝―――レミリア・スカーレット! 「…で。何でそいつがコンビニで買い物してんだ?」 「さあ…」 そう。大層に書いたけれど、彼女はただコンビニから出てきただけである。 コンビニでの買い物すらもカリスマ漂う吸血鬼・レミリア。果たして、何を買ったのか? 「うふふふ…高貴なる私に相応しきは、やはりこれしかないわね…」 唇から洩れるは、威厳に満ちた言葉。何処までもカリスマ吸血鬼な彼女が袋から取り出したのは。 「女性が選ぶコンビニスイーツ・五週連続ナンバー1!ウルトラ・スーパー・デラックスプリン!(税込398円)」 すぐそこで成人男性二人がずっこけているのにも構わず、レミリアは高々とUSDプリンを天に掲げる。 遂にはこれ以上ない程の笑顔でミュージカルよろしく、歌って踊り出す。 ~Song For The PURIN 素敵で無敵なぷるるんプリン~ 作詞:スエルテ沙魔沙 作曲:スエニョ沙魔沙 う~☆う~☆おやつだど~☆プリンだど~☆ プ・プ・プリン♪素敵なプリン♪ププププ・プリン♪無敵なプリン♪ あたしのプリン♪スペシャルプリン♪甘くて美味しい♪ぷるるんプリン♪ 人肉よりも♪生き血よりも♪アマアマ♪ウマウマ♪ぽよよんプリン♪ 敬え♪平伏せ♪愚民共♪あたしと♪プリンに♪跪(ひざまず)け~♪ 此処におわすは♪レミリア様の♪プリンだど~♪ (間奏・セリフ) 「俺…この戦争が終わったら、プリンと結婚するんだ…」←この直後に撃たれる 「お前らと一緒になんていられるか!俺はプリンと二人で部屋に戻るからな!」←犯人はプリン 「不吉だ…プッチンプリンのプッチンするとこが、勝手に折れやがった…」←交通事故に遭う 「遂にここまで来たか、我が息子よ…いや、勇者プリン!」←激闘の果てに改心するが黒幕にやられる がお~☆がお~☆食べちゃうど~☆プリンだど~☆ プ・プ・プリン♪偉大なプリン♪パパピピ・プリン♪パピプペ・プリン♪ あたしのプリン♪ミラクルプリン♪嬉しい楽しい♪さいきょープリン♪ 大人も子供も♪硬派な番長も♪みんなで♪ウマウマ♪ぷりぷりプリン♪ 崇めろ♪讃えろ♪愚民共♪あたしと♪プリンを♪奉(たてまつ)れ~♪ 畏れ多くも♪レミリア様の♪プリンだど~♪ 目指せ、オリコン78位!(発売日:未定 定価:限定盤100万円・通常盤100円) ※限定盤には原寸大レミリア様フィギュアが付いてきます。 「…おい、ジロー。プリン持って歌ってるぞ、最強の吸血鬼が」 「…ええ、レッド。プリン持って踊ってますね、最強の吸血鬼が」 陽光を浴びて、全身からプスプス煙が噴き上がっているのも気にしないくらいノリノリで。 しかも、すっげーいい笑顔で。 そんな事やってるもんだから、足を滑らせて盛大にコケた。 「あっ」という暇もない。 レミリアの手からUSDプリンがするりと離れ―――べちゃん、と地に落下。 哀れ、USDプリンは地面の染みと化した。 「あ…ああ…」 レミリアはさっきまでUSDプリンだった物体を愕然と見つめる。ああ、何ということだろう。 泣く子も笑う、人類が生み出せし至高のグルメ―――それこそはプリン。 世界最後の硬派と名高いあの番長も認める究極のスイーツ―――そう、プリン。 素敵なプリン。無敵なプリン。スペシャルプリン。ぷるるんプリン。ぽよよんプリン。 口の中で溶けていくきめ細やかな食感を、舌を蕩かすその甘美な味わいを、彼女はもう楽しめないのだ。 「あた…あた…あたちの…プリン…」 その大きな瞳から、滝のような涙が流れる。それだけならまだしも、鼻水まで滝のように流れる。 「あああああああ、あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁぁぁ!」 天地に響き渡る大絶叫。この音波によって半径10kmに存在するガラスというガラスが割れたという。 「どぼぢでぇぇぇぇ!どぼぢであだぢのぷっでぃんがこんなすがたにぃぃぃぃぃ!」 涙と鼻水塗れで地面に転がり、じたばた駄々を捏ねる。絶対の威厳が一瞬にして崩壊した。カリスマブレイクだ。 正直言って関わりたくないが、一応正義の味方としては、このまま放置するのも居た堪れない。 「…レッド。どうにかしてあげなさい。あなた、正義のヒーローでしょ?」 「お前こそ何とかしろよ…あいつと同じ吸血鬼で、正義側だろ?」 「コタロウがどう言っていたのか知りませんが、私は吸血鬼ではあっても別に正義ではないっ」 「なっ…ここに来て開き直りか!?ずりーぞ、テメー!」 責任を押し付け合う野郎二人。されどこいつらがどうにかする前に、レミリアに駆け寄る人影があった。 それは、メイドさんだった。紛れもなく、メイドさんだった。何を隠そう、メイドさんだった。 しかも只のメイドさんではない。<美少女の>メイドさんだった! 物語の中にしか存在を赦されぬ<ものごっつい美少女の>メイドさんだった! 通常のメイドさんの3倍どころか10倍の賃金を払ってでも雇いたくなるような、美少女メイドさんだった! この母なる大地(ガイア)に住まう全ての漢達の憧れ―――美少女メイドさんだった! 雪のように煌く白銀の髪。端麗な顔立ちはやや冷たさを感じさせるが、それは彼女の魅力をまるで損なう事は無く、 むしろその白皙の美貌を引き立てていた。 <お願いだから踏んでください!>と思わず土下座したくなる、すらりと長く白い脚も素晴らしい。 どこをどう見てもケチの付けようがない、完璧にして完全なまでの<美少女メイドさん>。 それはまさしく穢れた地上に舞い降りた天使にして神秘―――<美少女メイドさん>! はてさて、そんな美少女メイドさんはレミリアを優しく抱き起こす。 「ほら、お嬢様。そんなに泣かれて、どうなされたんです?」 「うわぁぁぁぁん、さくやぁぁぁぁぁ!あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁ!」 「ぷっでぃん?…ああ、プリンを地面に落としてしまわれたのですね」 しょうがないなあ、とばかりに肩を竦め、<さくや>というらしいメイドさんはレミリアの頭をナデナデする。 「はいはい、お嬢様。プリンぐらい、また買ってあげますから」 「ヤダぁぁぁぁ、あのぷっでぃんじゃなきゃヤなのぉぉぉぉぉ!」 「もう、我儘ばかり仰らないでください…」 ツー…と。 美少女メイドさんの鼻の穴から、紅い液体が漏れ出してくる。 「そんなお嬢様も可愛くて、可愛くて…咲夜は…」 ブバッ! 蛇口を思いっきり捻ったような勢いで、鼻血が噴き出す。 「興奮してしまうじゃないですかぁぁぁぁぁ~~~っ!」 恍惚としか表現しようのない笑顔で、グッと両手の親指を突き立て、メイドさんは天を仰いだ。 鼻血が見事なアーチを川崎の空に架けて、虹を描く。 そう―――今まさに、川崎市に血の雨が降り注いでいた!予告は間違っていなかったのだ! 「…………」 そんな地獄絵図を見守るレッドさんとジローさん。 もはや彼らの中の<恐るべき吸血鬼レミリアとその忠実なる従者>像は完膚なきまでに粉々になっていた。 このまま二人にコロナアタックをかまして何事もなかったような顔で立ち去ろうかなとレッドさんは一瞬思ったが、 流石にそれは正義の味方的に憚られる。何せ見た目は絶世の美幼女と奇跡の美少女なので。 「レッド、どうします…」 「どうするもクソも…仕方ねーだろ。とにかく、川崎まで来て何を企んでんのかだけ確かめとかねーと」 レッドさんは勇敢にも、絶対にお近づきになりたくない二人に対して声をかけるという英雄的行動に打って出た。 もうヤケクソになってるのかもしれない。 「…なあ。そこのメイドさん。ちょっといいか?」 「はい?」 脱脂綿を鼻に詰めて、メイドさんはこちらに向き直った。メイド服の胸元が真っ赤なのがもう、何というか怖い。 傍若無人なレッドさんでさえドン引きである。それでもレッドさんは勇気を振り絞り尋ねた。 「あのー…あんたら、本当に吸血鬼レミリアと、その従者なんだよな?」 「イグザクトリィ(その通りでございます)…ふふ。川崎にまで偉大なるお嬢様の名は轟いているのですね。従者として 実に誇りに思います」 優雅にお辞儀するメイドさん。しかしその鼻の穴には脱脂綿が詰められている。 「いかにも、この御方こそが我が主たる<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット―――そして、私はその忠実なる 下僕―――<完全で瀟洒な従者>十六夜咲夜(いざよい・さくや)と申します」 二つ名は凄かったが、レッドさん達の目の前にいるのは。 「びぇぇぇぇ、ぷっでぃん、あだぢのぷっでぃんがぁ、ぶぇぇぇぇん」 潰れたプリンを前に未だに泣き喚く幼女と。 「ふふ…本当に可愛らしいのですから…そんな姿を見ていると、咲夜は、咲夜はまた…ブバァァァッ!」 脱脂綿を鼻からロケットのように噴出させ、再び川崎に鼻血の雨を降らすメイドさん。 その無駄に放出される血を、某アカギさんに分けてやりたいものである。 人生最大級の頭痛を堪えつつ、それでもレッドさんは咲夜に問う。 「あんた…まさか、ロリコンなのか?」 「ロリコン?それは心外ですね。物事の表現は的確にすべきです」 脱脂綿を詰め直しつつも、咲夜さんは傲然と言い放つ。 「私は<ペドフィリア>です。ロリコンと一緒にしないで下さい!」 「…ごめんなさい」 どう違うんだよ、と心の中だけでツッコミを入れつつ、レッドさんは謝るしかなかった。 「分かればよろしい。これからはペドの人をロリコンなどと呼ばないように」 「…………コホン。一つ、訊いてよろしいか?何故レミリア・スカーレット程の吸血鬼が川崎に?」 埒があかないと見て、ジローが尋ねる。 そう、そもそもそれが全ての始まりである。レミリアはどうして、川崎まで来たのか? 「余程の理由があるのでしょうが…差し支えなければ、お教え願えませんか」 「え?ああ…そんな大した理由ではありません。これです」 川崎市のガイドブックを取り出す咲夜さん。その表紙にはバカでっかく、こんな文字が躍っていた。 <芸術はバクハツだ!世界の岡本太○が待っている!入場者歓迎!> 「お嬢様が是非とも<岡○太郎美術館>に行きたいとのことでしたので」 「…………岡本○郎」 「そ…そのために、わざわざ結界を越えて…?」 ひゅるるるるぅ~…と寒い風が吹き抜けていく。 「確かに呆れる理由ですよね…結界の管理者である八雲紫様と博霊の巫女―――霊夢(れいむ)さんを説得するのも 大変だったんですよ?そんな事のために結界を解いて外に出すわけにはいかない、と仰られて」 「そりゃそうだろ」 そうも簡単に結界解除を大安売りされては、こっちだって困る。 「でも、御二人とも最終的には折れてくださいましたよ。紫様には御土産に<ミニチュア太陽の塔>を白と銀のセットで 買って来るという事で…霊夢さんの方は賽銭箱に諭吉を突撃させたら、今まで人類が目撃した事のないような笑顔で 見送ってくださいました」 「「安っ!結界、安っ!」」 異口同音に二人の漢は叫ぶしかなかった。二人合わせても税込13150円也!それでいいのか、幻想郷!? 完全に固まったレッドさんとジローを放置して、咲夜さんは日傘をレミリアの頭上に翳し、その手を取った。 「さ、お嬢様。プリンはもう諦めて、○本太郎美術館へ行きましょう。紅魔館の皆に御土産買って帰りましょうね」 「うう…さよなら、あだぢのぷっでぃん…」 咲夜さんに手を引かれ、レミリアは鼻を啜りながら去っていく。 そんな二人の姿を、レッドさんとジローさんはただぼんやりと見つめていた。 「…俺、パチンコ屋に寄ってから帰るわ。お前はどうする?」 「…天気がいいので、帰って寝ます。吸血鬼ですから、私」 「そっか」 「そうです」 二人はただ疲れ切ったように、乾いた笑いを洩らすのだった…。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であり、そして可愛い女の子達が、恥ずかしい 液体(主に鼻水と鼻血)を惜しげもなく垂れ流したムフフな物語である!
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とある昼下がり。 正義のヒーロー・天体戦士サンレッドがフロシャイム川崎支部のアジトへ足を運んだ。 そう、彼は遂にフロシャイム殲滅のために動き出した―――はずもなく、単に昼メシをたかりに来ただけである。 そして今日のTシャツは<決闘王>だ。 「おーい、ヴァンプ~…あん?何だよ、いねーのかよ、おい」 サンダルを脱ぎ捨てて、ずかずかと廊下を進む。悪の巣窟へ潜入したヒーローとはもっと緊迫感溢れるものだとは 思うのだが、レッドさんはこういう御方である。御了承下さい。 そんな彼の耳に、居間から楽しそうな声が聞こえてきた。訝しげに覗き込むと、そこには。 「じゃ、私のターンいくよ!<伝説怪人ペリアル>を召喚して攻撃!」 「うわっ、また負けちゃった!」 「ヴァンプ様つえ~!三連勝じゃないっすか」 「いやー。まぐれだって、まぐれ」 何かのカードを手にして遊ぶ、我らが悪の将軍・現在バキスレで最も上司にしたい漢(おとこ)と噂のヴァンプ様と、 彼の配下の怪人達の姿があった。 「…何やってんだ、お前ら」 「あ、レッドさんじゃないですか。こんにちわー」 「挨拶はいいからよ。何だよ、それ」 「これですか?」 ヴァンプ様はニコニコしながらカードを手に取り、レッドに見せつけた。そして悪モードに入る。 「ククク…これこそは我らフロシャイムが開発した最新カードゲーム<バトルクリーチャーズ>!これを大々的に 売り出して、資金源にするつもりだ!恐れ入ったか、サンレッド!フハハハハハ!」 「モロにパクリじゃねーか、アレの」 レッドさんの反応は、いささか冷ややかであった。 天体戦士サンレッド ~悪夢の遊戯!苛烈なる死闘 「大体なあ」 レッドはヴァンプ様お手製のオムライスをパクつきながら、説教を開始する。 「お前ら悪の組織なんだろ?何を真っ当に商売なんかしてんだよ。悪なら悪らしく、金がいるんなら銀行強盗でも すりゃいいじゃねーか」 「もう、レッドさんったら。いくら<悪の組織>だからって、そういう悪は許されませんよ。警察に捕まっちゃうじゃ ないですか」 「逮捕されるのを心配する悪の権化なんざ聞いたことねーよ…それでこんなモン開発してりゃ世話ねーな」 「まあまあ、そんなこと言わずに。レッドさんもちょっとやってみませんか?自分で言うのもなんですが、面白い ですよー、バトクリ。ちなみにパック一つに付き十枚入り、三百円です」 「もう略称付けてんのかよ…」 相変わらずニコニコしながらカードを差し出すヴァンプ様に、レッドはウンザリしつつもそれを受け取った。 「ったく、じゃあちょっとだけだぞ?つまんなかったらさっさと帰るからな」 邪険にしつつも付き合ってあげる辺り、レッドさんも立派なツンデレである。 「じゃ、ルールの説明しながらやりましょうか。カードは大まかに分けると、相手と直接バトルするキャラカードと、 その戦闘を補助するサポートカードがありましてですね…」 「ほーお。それで?」 ヴァンプ様の懇切丁寧な解説により、レッドはバトクリのルールを把握していく。そしてルールが分かれば実際に やりたくなるのが人情というもので、素っ気なかったレッドも今では興味津々でカードを眺めていた。 「―――と、まあこんな感じですね。とりあえずカードは好きに使ってくださって結構ですんで、実際にデッキを 組んで一勝負してみましょうか」 「おう!…しかしこのカード、どっかで見たような絵柄ばっかだな」 「ええ。フロシャイムから売り出すゲームですから、大概はウチにちなんだ怪人やヒーローで作ってるんです」 「ふーん。おっ?俺のカードもあるじゃねーか。よし、コイツは入れとかねーとな…おっしゃ、早速やろうぜ!」 「はい、それじゃあ始めますよ…<死闘(バトル)>!」 号令と同時に互いにカードを引き、闘いが始まった。激しい攻防が幾度となく繰り返されたが、最後はヴァンプ様 が一日の長を見せて、見事勝利をもぎ取ったのだった。 「あー、チクショウ!もう一回だ、もう一回!」 負けたものの、どこか楽しそうなレッドさん。覚え立てのゲームというのは、勝敗抜きに楽しいものである。 「ははは、いいですとも。何回でもやりましょう」 ヴァンプ様も気軽に答えて、デッキをシャッフルする。こうして何の変哲もない、和やかな時間が流れていった。 ―――だが、それもレッドが五連敗を喫した辺りから、風向きが怪しくなってきた。 「え…えーと…私のターン…<カーメンマン>と<メダリオ>で連携攻撃<ツイン・デスアタック>を発動して、 レッドさんのフィールドにいる<天体戦士サンレッド>を攻撃…レッドさんのライフは0で、私の勝ちです…」 勝利宣言しながら血の気が引きまくりのヴァンプ様。対して、青筋をこれでもかと浮かべたレッドさん。 「ちょ、ちょっとヴァンプ様!まずいですよ、ここら辺でレッドを勝たせてあげないと…」 戦闘員1号がヒソヒソと耳打ちするが、ヴァンプ様は青い顔で首を振るばかりだ。 「しょうがないでしょ。さっきわざと負けようとしたら<何手抜きしてんだコラァ!>って怒鳴られたじゃん!」 ドンッ!と机をぶっ叩く音に、フロシャイム一同は身を縮ませる。レッドは幽鬼の如く陰鬱なオーラを出しながら 立ち上がり、ボソっと呟く。 「…帰るわ」 「あ、そ、そうですか!いやー、何のお構いもせずに…」 「いやいや、いいってことよ。それでヴァンプ、次の対決だけどよー、是非そこの二匹で頼むわ」 「お、俺らっすか?」 カーメンマンとメダリオは、冷汗をダラダラ流しながら自分の顔を指差す。 「おう。お前らのツイン・デスアタックっての、どーしても見たくなってなー。俺を問答無用でブチ殺せるすげえ 必殺技なんだろ?楽しみにしてっからな。じゃ、また今度」 ドスドスと威圧感たっぷりの足音を響かせ、レッドさんは帰っていった。残されたフロシャイムの皆様は、異様 に気まずい空気の中、茫然と顔を見合わせる他なかった…。 ―――後日の対決において、カーメンマンとメダリオのコンビは、レッドさんにいつもより念入りにボコられたと いうのは、また別の話である。合掌。 それはさておき、一ヶ月後。バトルクリーチャーズは若者を中心に大流行していた。 その一例として、とあるごく普通の高校の、朝礼前の一幕をお見せしよう。 「へへー。見て見て、カナちゃん」 「どれどれ…うっそー!これ、百パックに一枚の封入率と噂の<ウサコッツ>ラメ入りキラカードじゃん!」 「なに!?おい、ちょっと触らせてくれよ!」 「ダーメ。見るだけだよー」 珍しいカードを手に入れた者は羨望の的となり、ちょっとした英雄気分が味わえる。 「風間、俺と勝負しようぜ!今日はギョウ先輩を中心に<ウザい先輩デッキ>を組んだんだ」 「うん、いいよ。今日の僕は飛行系の怪人を集めた<フロシャイム翼の会デッキ>さ」 実に数千種類と言われるカードの中から、日々新たなデッキを組み、勝負に勤しむ者もいる。 そんな教室の中央で、歓声が上がった。どうやら相当にレベルの高いゲームが繰り広げられているようだ。 「あそこ、盛り上がってるねー」 「ホント。そんなにいい勝負なのかしら…って、アレ、ソースケじゃん!」 <カナちゃん>と呼ばれた女子―――本名・千鳥かなめは、中心にいる鋭い眼光の男子生徒を見て目を丸くした。 彼の名は相良宗介。この学校である意味最も面白い男であり、ぶっちゃけボン太くんの中の人である。 「あいつもバトクリやるんだ…にしても、そんなに上手なの?」 「相良くんはどうか知らないけど、相手の人は隣のクラスの貝馬(かいま)くんだよ。ゲームが物凄く上手くて、 エンペラーって呼ばれてるんだって。バトクリも相当にやってるそうだけど…」 「へえー。あ、ソースケのカードがやられちゃった。こりゃ負けたわねー」 クラス中の注目が集まる中、貝馬は勝ち誇った笑みを浮かべる。 「ワハハハハハ!オレのフィールドには<アントキラー><モギラ><モゲラ>が揃っている!対して貴様の 場にいるのは役立たずの<セミンガ>のみ!貴様はもう終わりだぁぁぁぁぁっ!」 「うわ、テンション高っ!何あれ…」 かなめがドン引きするほどハイテンションの貝馬に対して、宗介は静かに言い放った。 「獲物を前に舌舐めずり…三流のやることだな」 「なに!?」 宗介はデッキからカードを引き、悠然とそのカードを示した。 「俺の引いたカードはサポートカード<脱皮>!これを発動し、<セミンガ>を墓地へ送る!そして俺の手札から <完全体セミンガ>を召喚!」 「な…<完全体セミンガ>だとぉっ!条件こそ厳しいが、召喚に成功さえすれば他を寄せ付けぬ圧倒的な力を誇る 飛行系怪人最強のレアカード!そんなカードを持っていたのか!」 「このカードにより<セミンガ>はパワーを大幅に上げ、更に飛行能力を得た!対して貴様のフィールドには砂系 怪人のみ!よって<完全体セミンガ>は一方的に貴様を攻撃できる!」 「バカな…!バカなぁぁぁぁぁっ!」 <セミンガ>の直接攻撃により、貝馬くんのライフは0になった。宗介の勝利である。 「―――更に俺は場に伏せておいたサポートカード<サンレッドの説教>を発動!これは相手プレイヤーへの 直接攻撃に成功した時に発動可能で<完全体セミンガ>はもう一度攻撃の権利を得る!」 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!」 「更に手札から…」 「いい加減にせんかぁっ!」 スパーン!と後頭部をハリセンで叩かれた。 「もうやめなさい!貝馬くんのライフはもう0よ!」 「痛いぞ、千鳥。戦場において敵の生死の確認を怠れば、後々非常に面倒な事に…」 「あんたが言うと説得力ありすぎだけど、ここは学校であって戦場じゃないっつーの!」 ちなみに貝馬くんは魂を抜かれたように真っ白になっていた。よっぽど敗戦がショックだったらしい。 「全く、あんたってば…それにしても、随分バトクリやり込んでるみたいじゃない。こんなのに興味あったなんて 意外ねー。あんたもそれなりに現代社会に馴染んできたってトコ?」 何気なく宗介のデッキを手に取り、パラパラと眺めるかなめ。次第にその顔が強張ってくる。 「ちょ…これ、レアカードばっかじゃん!各種キラカードに…うわっ!<ムキエビ先輩・天ぷらバージョン>!? 未だ誰も見たことがない、実在すら疑われているという伝説にして幻の!あんた、どんだけハマってんの!?」 「いや…俺も最初はあくまで任務の為に、調査をしているだけのつもりだったんだ。それがいつの間にか、全ての カードを集めなければ気が済まなくなってきて…気付けば、五百万円ほど浪費してしまった」 「ごひゃくまん!?あ、あんたねえ…」 かなめは呆れ果てていたが、その事実に戦慄したのは当の宗介自身である。 (何という恐ろしい発明をしたんだ、フロシャイムめ…!自らの広報活動と資金の調達、更には敵となり得る者に 対しての、資金面からの攻撃…これら全てを同時に行うとは!俺は…そしてミスリルは、とてつもない相手を敵に 回してしまったのかもしれん…!) その一方で、彼はこうも思うのだった。 (しかし、それは別として面白いな、これは…今度クルツとマオにも勧めてみよう) <ミスリル>でバトクリが大流行する日は、そう遠くはなかったという。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
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正義と悪が互いの全てを賭けて闘う神奈川県川崎市・溝ノ口。 その駅前に今、新たなる悪魔達が降り立った。 「いやー、結構混んでましたね、ピラフ様」 「あーもう!あのオヤジ、混雑をいいことに私のおしり触ったんですよ!あームカツク!」 「ふ…そうぼやくな。我々が世界征服に成功すれば、新幹線のグリーン車とてタダで乗り放題なのだからな」 微妙に情けないことをのたまうのは犬人間・若い女性・怪人というアンバランスな三人組。そう――― 奴らこそは、恐るべき悪党なのだ! 「調査によれば、ここ溝ノ口にはフロシャイムとかいう悪の組織の支部があるというが…ククク。悪の組織は二つも いらん。今日より我々がこの地を支配するのだ!」 「大丈夫ですかねー」 「心配いらん。何でもそいつらはヒーローに負けっぱなしの弱小組織ということだからな…既に十人以上のヒーロー を屠っている我々の敵ではないわ!ワーッハッハッハッハッハ!」 ピラフ様と呼ばれた怪人が、高笑いする。 「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハゲホゲホブホッ!」 「ああ、ピラフ様!」 「そんなに無理して笑うから…」 「や、やかましい!悪の支配者というものは無理してでも高笑いするものなのだ!」 そんな三人を、町の人々は暖かく見守っていた。 「ママー、あのひとたちなのやってるのー?」 「しっ!見ちゃいけません」 ―――その頃、フロシャイム川崎支部のアジトでは、ヴァンプ将軍がケーキを作っていた。 ケーキの中央には砂糖菓子で作ったお手製のサンレッド人形が乗っている。 「さーて、最後に溶かしたチョコで文字を書いて…美味しいケーキが出来ちゃった!」 ちなみに書いた文字は<殺>の一文字である。 お菓子作りにさえサンレッド抹殺への意欲を燃やすヴァンプ様、恐ろしい漢(おとこ)である。彼はケーキを持って 居間へ向かう。そこにはアジトに入り浸っている怪人達の姿があった。 「さーみんな、ケーキ食べてみて。今回のは自信作だよ」 「うわ、ウマそー!」 「流石ヴァンプ様、天才!」 「もー。おだてないでよ、みんな」 ポッと顔を赤くしながらも満更でもなさそうなヴァンプ様。平和な日常がそこにあった。 「ふもっふー!」 「はいはい、今切ってあげるから待っててね、ボン太くん」 「もふっ」 手をパタパタさせる謎の物体・ボン太くん。彼はもはや完全にフロシャイムに溶け込んでいた。 下手をすれば自分が潜入捜査の最中であるということを忘れているんじゃなかろうかと思えるほどだ。 と、備え付けのファックスがカタカタと動き出した。 「あれ?本部からだ。どうしたんだろ」 用紙を破って目を通す。そこにはあの三人の顔写真とともに、こう記載されていた。 <要注意!数多くのヒーローを倒している怪人集団・ピラフ一味。 リーダーのピラフ・部下のシュウ(犬)とマイ(女)で構成された三人組。 現在川崎市に向かっているとのこと、注意されたし> ヴァンプ様は顔をしかめる。 「要注意怪人・ピラフ一味だって。やだ怖ーい。ちゃんと戸締まりしとかないと」 「ふもっ!?」 それを聞いた途端、ボン太くんが急に激しくふもふもしながら手をバタバタさせた。 「え?これが見たいの、ボン太くん」 「もふもふ!」 「はいはい、どうぞ」 ほとんどひったくるような勢いで用紙を手に取り、ボン太くんはそれをマジマジと見つめる。 「ふも…(何ということだ…)」 「ど、どうしたのボン太くん…」 「もふもふも…ふも!(あの悪党共が、ここに…こうしてはおれん!)」 「急にそわそわしちゃって。何かあったの?」 「ふもふも、ふもふー!(<ミスリル>もすぐには動けんだろう…ここは俺がやるしかない!)」 ボン太くんは用紙を台所のホワイトボードに貼って、すぐさま玄関から外に出る。 「あ、ちょっと!ねえ、ケーキは?」 「もっふるー!(はっ!自分の配給はラップをかけた上で冷蔵庫にて保管を願います!)」 それだけ言い残し、ボン太くんはダッシュで消えていく。ヴァンプ将軍は頭に???マークを並べていたが、すぐに ポンと手を打った。 「怖い人達が来るから、自宅の戸締まりを確認しに行ったんだね!」 どっかずれてるヴァンプ様であった。 ―――天体戦士サンレッド。彼が守るべき神奈川県川崎市に危機が迫る! 天体戦士サンレッド ~唸る剛腕!最強の虎と無敵の獅子 さて、更に場面は変わって、とある安アパートの一室。 二匹の怪人が、顔を突き合わせていた。 「ふう~…やだやだ。サファリパークみてーな臭いがプンプンするぜ。誰かさんが俺の部屋に来るから」 「うむ、拙者も気になっていたでござる。これはこの部屋の住人のせいで染み付いた臭いでござるな」 はっはっは、と二匹は作り物丸出しの笑顔である。 一匹はこの部屋の住人であるフロシャイム怪人<アーマータイガー>。ダイヤモンドより硬いアーマーを身に纏う、 屈強な身体と虎の頭部を持つ怪人だ。怪人の中でもトップクラスに強靭な肉体から繰り出される数々の技は、対戦 相手を確実に破壊する―――しかしサンレッドにはボコボコにされた。なお、今の彼は自宅なのでアーマーは着て おらず、ランニングシャツとトランクス一丁である。 対するは<ヨロイジシ>。武士のような甲冑姿に獅子の頭を持つ、これまたフロシャイム所属の怪人である。彼が 装備するのは、無敵の防御と引き換えに使用者の体力を奪い続ける呪いのヨロイであるが、無尽蔵の体力を誇る 彼にとっては理想の防具そのものである―――ちなみにアフリカ出身であり、ござる口調はキャラ作りの成果だ。 やはりサンレッドにはギタギタにされている。 この二匹、先程の会話でも分かる通り、仲はよろしくない。 共にネコ科猛獣の代表選手であるトラとライオン。更にはお互い<アーマー>と<ヨロイ>である。盛大にキャラ が被っている彼らはライバルとして、事あるごとに反目し合っているのである。 「全く、時代遅れの虎と話すのは疲れるでござるよ。文化的な会話が成り立たんでござる」 「バーカ。知らねーのか?今世間は<タイガー>がブームなんだよ。ライオン野郎はお呼びじゃねーの」 「阿呆はお主でござる。ブームになっているのは<手乗り>の方であって<アーマー>ではござらん。その点拙者 は百獣の王であるライオン!いつの時代も根強い人気でござる」 「てめーは<ライオン>じゃなくて<ライオン型怪人>だろうが!」 「お主こそ<虎型怪人>であって、本物の虎ではないであろうが!」 二匹の不毛な口論はいつまでも続くかと思われたが、その時<ドン!>と、部屋の壁を蹴り飛ばす音がした。二匹 はビクっと身を竦ませる。 「やっべー…隣のおっさん怒らしちまった…」 「確か、夜間タクシーの運転手という話でござるな…」 「ああ。だから昼間騒ぐと後で怖いんだよ…」 「…では、外に出るか。これ以上一般人の安眠を妨害するわけにはいかんでござる」 「ああ…」 猛獣の二大横綱である虎と獅子は、小さくなってコソコソと安アパートを出ていくのだった。草場の影では、きっと 鋼鉄神と勇者王が泣いていることだろう。 「それでお前、何の話だっけ?」 「何の話ではござらん。拙者とお主で組んでサンレッドと闘う相談であろう」 ああー、とアーマータイガーは得心した。 「その話、俺らが風邪でダウンしてお流れになったんじゃなかったのかよ」 「馬鹿者め。まだサンレッドと闘ってすらおらんのにお流れになるわけなかろう」 「へっ!こんなライオン野郎と組むより、俺一人でやった方がまだマシだっての」 「おうおう、弱い虎ほど吼えるでござる。サンレッドにベキベキにのされたのは何処のどいつかな?」 「うるせえ!てめえなんて一週間に二回もバキバキに折られたくせに!」 「何を、このアーマーが!」 「くたばれ、このヨロイが!」 遂には取っ組み合いになる二匹であった。ちなみにアーマーもヨロイも意味は同じである。 「くっくっく―――これが悪の組織の構成員とは笑わせる。どうやらフロシャイムとやらは深刻な怪人材不足らしい のお?ヒーロー一人程度にいいようにやられるわけだわい」 「「あん!?」」 嘲りの言葉に、ケンカを中断して二匹は振り向く。そこにいたのは例の三人組―――ピラフ一味。 「私は世界の帝王・ピラフ様だ。今日よりこの地は我々の支配下に置かれる―――ありがたく思えぃ!」 二匹は<よくいる可哀想な人だな>と判断し、構わずケンカを再開した。 「アフリカ帰れ、このエセ武士が!」 「ベンガルに帰省しろでござる、このダメ虎が!」 「聞いてないですよ、こいつら…」 「完全に無視されてますね、我々…」 「こら貴様ら、こっちをちゃんと向け!」 「てめえのヨロイ全然似合ってねーんだよ!」 「お主のアーマーはまるで着こなしがなってないでござる!」 「き、き、き、貴様らー!人の話は最後まで聞きなさいとお母ちゃんに言われんかったのかー!?」 「あ…ヴァンプ様に言われた、それ」 「拙者も言われたでござる…」 やっとこ二匹はピラフ一味へと向き直った。ピラフは怒鳴ったせいで肩で息をしながらも力強く言い放つ。 「我々は世界征服を企む悪党集団・ピラフ一味だ!これよりこの地を足掛かりに、世界を我が手に掴む!そのため には邪魔なヒーローと、貴様らフロシャイムには滅んでもらおう!」 「え…?あんたらが?ははは、そりゃ無理だって。あんたらじゃとてもレッドの野郎にゃ勝てねーよ」 「それどころか、拙者達を倒すこともできんでござろう」 「ふ…そんなことをほざいていられるのも今のうちだ。行くぞシュウ、マイ!」 「「はっ!」」 三人(正確には二人と一匹)は謎のカプセルを取り出し、ボタンを押しながら地面に投げる。ボワンと煙が立ち昇り、 現れたのは三機のマシーン。三人はそれぞれ乗り込む。 「ふふふ…驚いたか!だが、まだまだこれからだ!いくぞ、ピラフマシーン・合体!」 三機は折り重なるように結合し、一機の巨大なロボットと化した。 「わはははは!これこそがこのピラフ様の最終最強の兵器の姿だ!我々はこれによって既に十人ものヒーローを 地獄へと送っている。貴様ら弱小組織の怪人如き一捻りだ、はーっはっはっはっはっは!」 高笑いするピラフ。しかし、アーマータイガーとヨロイジシはそんな彼らを興味なさそうに一瞥するのみだ。 「なんか…大したことなさそうだな、お前ら」 「うむ。残念ながら、お主らでは我々の相手は務まらんでござる」 「精々ほざくがよい…死ねぇっ!」 横薙ぎに叩きつけられる鋼鉄の腕―――アーマータイガーはそれを、かわそうとはしなかった。 ただ、軽く腕を上げた。タクシーを呼び止めるような、気楽な態度で。 ただそれだけで、あっさりとピラフマシーンの一撃は受け止められた。 「な…」 「おいおい、なんだよこりゃ。レッドの拳に比べりゃ、蚊が刺したようなもんだな」 「な…ならばこれはどうだ!」 拳が変形し、銃の形になる。そこから放たれたのは、灼熱の火炎―――しかし、ヨロイジシはその炎の中で、平然 としていた。そして裂帛の気合いを放ち、一瞬にして炎を消し飛ばす。 「ふん!太陽の戦士であるレッドを相手にしている拙者に、この程度の炎が通じるとでも思ったでござるか?」 「う、うう…」 怖気づくピラフを尻目に、猛獣達は狩りを開始した。ピラフマシーンの両腕部を引っ掴んで、力任せに引き千切る。 すぐさま態勢を整え、同時に強烈なタックルをかける。ピラフマシーンは吹っ飛ばされ、塀に叩き付けられた。 「ち…ちくしょう…お前らなんぞに…負けるわけがないんだぁぁぁぁーーーっ!」 死に物狂いで渾身の体当たりをぶちかました―――だが。 アーマータイガーとヨロイジシは、それすらも平然と受け止めた。 「これまででござるな。もはやお主らに勝機はなかろう」 「そ…そんな、バカな…お前らはヒーローにやられてばっかの弱虫のはずじゃ…」 「どうやらお前らみんなして勘違いしてるようだから、言っといてやるよ」 アーマータイガーは胸を張って宣言する。 「俺達が弱いんじゃねえ―――サンレッドが強えんだよ!」 「ちょっと情けないがそういう訳でござる。残念だったでござるな」 そして最強の虎と無敵の獅子は、野獣の速さで大地を蹴る! 「アーマータイガー必殺―――<タイガー殺法>!」 「ヨロイジシ必殺―――<シシ落とし>!」 ―――二大怪人の奥義が炸裂し、ピラフマシーンは盛大に爆発したのだった。 「う…うぐぐ…くそ…」 二人が立ち去った後、残骸の中からようやくのことでピラフ達は這い出してきた。 「ピラフマシーンが、こんなにあっさりやられるなんて…」 「あいつらが勝てないなんて、天体戦士サンレッドってのはどんだけ強いんですかね…」 「バカもん、何を弱気になっとるか!奴らめ、このままではすまさんぞ。今に見ていろフロシャイム、全滅だ…」 そう言いかけた時だった。首筋に強烈な電撃を受け、ピラフ達は一瞬にして失神・昏倒する。 「…国際的テロリスト・ピラフ一味、確保」 背後に立っていたのは、少年―――まだ十代半ばにして既にその身体には硝煙の香りがこびり付いていた――― そう、彼こそはボン太くんの中身である。 闘いを静観していた彼は三人の背後から近寄り、素早くスタンガンを押し当てたのだ。 「ここ数年に渡って裏の世界を震撼させてきたテロリストも、最後は呆気ないものだな…」 ヒーローを十人倒したという彼らの自己申告は、決してハッタリではない。少年にとっては因縁の敵だった、とある <史上最悪の男>には流石に劣るが、それでもその悪名は闇社会に轟いていたのだ。無論、彼の所属している <正義の秘密組織>においても、一味は危険な集団としてマークされていたのだ。 「だが真に恐るべきはそれをあっさり捻じ伏せたフロシャイム…もしあの力が罪なき人々に向けられれば、恐ろしい 事態になりかねん」 眉根を寄せて呟く少年。実を言うと彼は、自分の任務について疑問を持ち始めていた所だったのだ。 悪の組織という割にはまるで悪事を働かないし、将軍に至っては悪の幹部というよりカリスマ主夫だ。まさか上官は フロシャイム側と何らかの癒着をしているのではないかという疑惑さえあったが、今まさに全てを理解した。 「俺の正体は既に気付かれている…!」 だからこそ奴らは警戒し、悪事を控えていたのだろう。上官も言っていたではないか、連中は巧みに立ち回り、証拠 を決して残さないと。そうでないなら、あれほどの力を持っていながら悪を行わない理由がない。 「あのケーキも、恐らくは毒が仕込まれていたに違いない…!」 迂闊だった。完全に油断していた。敵陣で出された食物に手を付けようとは!もしもあれを口にしていれば、今頃は 自分の命はなかっただろう。そしてまんまと邪魔者を始末したフロシャイムは、再び邪悪な本性を露わにしていたで あろう。そう思うと、己の甘さに忸怩たる思いが込み上げる。 ―――言うまでもないが、これらの想像は全て壮大な思い過ごしである。 「これから先は、もっと慎重に動くべきだな…おっと、その前にこいつらの身柄を引き渡さねば」 少年は三人を引きずり、雑踏の中へと消えた。 ピラフ一味の野望、ここに潰える。 「へっ…中々やるじゃねえか、お前も。少しばかり見直したぜ」 「ふ…お主も、意外と骨があるでござるな」 闘いを終えた二匹は、互いに褒め称え合う。共に潜り抜けた視線が、その距離を僅かながら縮めたようである。 「今なら俺達、レッドにだって勝てそうな気がするぜ…」 「うむ。悪くとも、いつものようにズタズタにはされぬはず…む!噂をすれば!」 二匹は見知った背中を発見し、勢いよく駆け寄る。 「レッドさーん!」 「お?なんだよ、お前ら。今日はやけにご機嫌じゃねーか」 言うまでもなく我等がヒーロー・天体戦士サンレッド―――ちなみに今日のTシャツは<ドラゴン○ール改>。 「レッドさん、お願いがあります!今すぐ、俺達と対決してください!」 「はあ?今すぐ?気が乗らねーなー…」 「拙者からもお頼み申し上げる。今の我々は、はっきり言ってレッドさんにも勝てる気がするでござる!」 「何ぃ?大きく出やがって、このヤロー」 やる気満々な二匹に、どうやら無気力ヒーローのレッドにも思う所があったらしい。にやりと笑うと、拳をポキポキ と鳴らしながら、悠然と挑発する。 「面白ぇ…ちったぁ骨のあるとこ見せろよ、ヘボ怪人共!」 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である! (なおアーマータイガーとヨロイジシは、いつも通りにレッドさんにメタメタにされました)
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「ふぅん…意外に食い下がってるわね」 と、観客席から闘いを見下ろすレミリアは鼻を鳴らした。 「風見幽香への怒り、そして憎悪…それが奴に力を与えている。そういう事かしら?」 「言い方が悪いよ、レミリアちゃん。せめて正義の怒りをぶつけているって言ってよ」 「どう言おうが、同じ事です」 コタロウは抗議するが、レミリアはすっぱりと切って返す。 「それに、その二つが悪いものだなどと、私は思っておりません」 「ええ~…そうかなあ…」 不満顔で、コタロウは口を尖らせる。 「一番強いのは、愛と友情だと思うけど。漫画やアニメだと、大抵そうだもの」 「成程。そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう―――負の感情から生まれる力は時に其れ を凌駕する。特に、怒りと憎しみは―――何よりも強い。憤怒とは、純粋なる人間の情念につきますれば」 まあ、あいつは人間じゃなくてヒーローですが。レミリアはそう締め括り、ジローに向き直った。 「分かるでしょう、あなたなら。かつて怒りと憎しみでその銀刀を振るった、あなたなら…ねえ、ジロー?」 「…貴女の仰る通りですよ、レミリア。それは疑う事なく真実です」 けれど、とジローは微笑んだ。 「ここは弟の説を採用して、愛と友情こそが最強だと言っておきましょう」 「おや、優しいお兄様だこと―――まあ、いいでしょう。こんな議論に意味はない」 「花が枯れるか陽が沈むか―――この闘いの結末は、その二つに一つ。その事実に、何も変わりはない」 深緑の大妖が空を舞う。 それを追い、真紅の太陽が空を駆ける。 単純な速度に関しては、プロミネンスフォームを発動させたサンレッドに比する者は幻想郷にもそうはいまい。 風見幽香といえども、その例外ではない。 「追いかけっこは、正直あまり得意じゃないのよね…」 幽香は、うんざりしたように呟き。 「けど、追いかけてくる相手を追い返すのは得意よ」 奇術師のような仕草で右手を握り込み、開けばその掌には血のように紅い薔薇。 その花びらが、一斉に弾けた。 「花符―――<薔薇吹雪>!」 薔薇の花びらが舞い散るその光景は、誰もが見惚れるほどに美しい。 だが幽香の妖力を宿したそれは、一枚一枚が、鉄をも易々と切り裂く鋭利な刃だ。 サンレッドは、避けない。己の身に太陽闘気を纏わせ、真正面から飛び込んだ。 太陽闘気に触れた花びらは炎上し、灰となる。しかし、全てを焼き尽くす事はできない。 焼け残った花びらに切り刻まれるのに構わず、幽香への最短距離を駆け抜けた。 その勢いのまま、肩から全身をぶつける。空中に弧を描きながら、己の肉体ごと大地へと叩き付けた。 衝突のショックで地鳴りが響き、巨大なクレーターが刻まれた。 その惨状は、隕石が激突したのと何ら変わりがない。 「ぐっ…は…!」 さしもの幽香も堪え切れず、口の端から血を吐く。レッドは、手を緩めない。 「ダラララララァァァァァァっ!」 馬乗りになり、両拳で流星群の如き乱打を放つ。その嵐のような攻撃に、実況も興奮気味に叫んだ。 『完全に流れが変わったか!?サンレッド、鬼神の如き攻勢だ!あの究極加虐生物・風見幽香がメッタ打ちィ! これで勝負は決まるか!?幻想郷の血濡れの大輪・風見幽香がここで終わるのか!?』 (―――まだだ。この女がこれで終わるはずがねえ) そう実感していたのは、サンレッド自身だ。 一方的に攻めていながら、勝利に近づいている気がまるでしない。 (まだ何かあるはずだ。こいつには、まだ何か―――) ―――視界の端に、人影を捉えた。 横手から激しい衝撃を受けて吹っ飛ばされたのは、それと同時。 予想外の一撃に、受身を取る事も出来ず地に転がる。 闘いに乱入し、横からレッドを蹴り飛ばした<彼女>は静かに口を開いた。 「女の子にそんな乱暴するなんて、紳士的じゃないわね」 「…!」 そこにいたのは。 緩くウェーブのかかった碧の髪をさっぱりとショートボブにして。 赤いチェック柄の上着とスカートを着て。 淑やかな美貌に穏やかな微笑を浮かべた。 風見幽香そのものだった。 突如現れたもう一人の幽香は、クレーターの中心に半ば程埋まった幽香を力任せに引きずり出す。 「双子…って、わけじゃねえか…」 「そう。私達は二人とも、風見幽香本人よ」 「分身といえば、分かりやすいかしら?」 はあー、と、立ちあがったレッドは嘆息する。 「今更だけど、ここの連中は何でもありだな…もう驚きもしねーよ」 埃を払い、再びファイティング・ポーズを取った。 「来やがれ。どこぞのテニス部員の物真似したくれーじゃ俺にゃ勝てねーって事を教えてやる」 「それじゃあ」 「ダブルスでいくわよ…なんてね!」 二人の幽香が迫る。 繰り出される拳と蹴り。単純に考えても、手数は先程までの二倍だ。 レッドも応戦するが、どう考えても分が悪い。 (まともに肉弾戦やってたら、ジリ貧になるのがオチか…!) 距離を取りつつ闘い、ヒットアンドアウェイを繰り返しての各個撃破。 ここは、それに活路を見い出すしかない。 攻撃を受け流しつつ、プロミネンスフォームの機動力を活かして彼女の勢力圏内から離脱する。 幽香はそれをまっすぐ追うことはしない。 円を描いてそれぞれ左右に展開し、レッドを両側から挟み込むように陣取る。 そして、二人ともに両手を腰だめに構えた。 その姿は、かの国民的ヒーローが必殺技を放つ際のポーズに見えなくもない。 幽香の全身から迸る魔力が、掌に集中していく。その余波がバチバチと火花を散らし、暴風を巻き起こす。 ―――彼女が放とうとしているのは、幻想郷に伝わる魔法としては極々つまらない、単純なものだ。 己の魔力を砲弾とし、撃ち出す。ただそれだけの魔法。 習得も使用も特に難しくはない。破壊力も、魔法具の補助なしならば大して脅威というわけでもない。 しかし―――風見幽香のそれは、例外だ。 彼女の莫大な妖力と魔力は、平凡な魔法を戦略兵器のレベルにまで引き上げる―――! 「マスタァァァァァァァァ…!」 「スパァァァァァァァァクッ!」 突き出された両腕から放たれた、破壊と破滅の閃光。 或いはそれは、全てを呑み込み、押し流し、消し飛ばす濁流。 大口を開けた二匹の大蛇の如く、左右からレッドに襲い掛かった。 「―――!」 サンレッドといえど、ここは逃げるしかない。上空へ飛び上がる。 直後、二条の光は互いにぶつかり合い、激しい輝きを残して対消滅する。 「うおっまぶしっ…!」 一瞬、目が眩む。 その時、背中にそっと、誰かの手が当てられた。 優しいくらいに柔らかな手がもたらしたのは、全身が泡立つ様な悪寒だった。 振り向けば、そこにあったのは、今では鬼女としか思えない、その微笑―――! 「さ…三人目、だと…!」 「マスター…スパァァァァァァク!」 零距離から放たれた、万物を焼き尽くす業火。 炎や熱に対して高い耐性を持つレッドですら、骨まで燃えていくような圧倒的な熱量に悲鳴を上げる。 それでも全力で身を翻し、逃れる。 全身から黒煙を吹き出させながらも、態勢を崩す事なく着地した。 三人の幽香も、その前方10メートルの距離に勢揃いする。 「ちっ…聞いてねーぞ、三人に増えるなんざ」 「あら、やろうと思えば百人にだってなれるわよ」 「はん…テニス部員じゃなくて、忍者の方か。芸達者なこった」 レッドは吐き捨て、しかし、何かを確信したように言い放つ。 「けど、さっきの攻防で分かった…その技は欠陥品だ。次で、破ってやらあ」 その自信ありげな態度に、会場は逆転の予感で沸き立つ。対する幽香は、楽しげに唇を三日月の形に歪めた。 「単なる虚勢でもなさそうね…いいわ」 「破れるものなら」 「やってみなさい」 三人揃って、迷う事なく一直線に駆け抜ける。 接近戦でケリを付けるつもりなのは明白だった。 如何にレッドでも、それでは数の優位で押し切られるだろう。 しかして、レッドは退かない。 両の脚を踏ん張り、迎え討つ。 (俺の考えが正しいなら―――やれるはずだ!) レッドの狙いは一つ。 一人だけ倒しても、二人残る。二人を倒しても、一人残る。 ならば―――三人まとめて迎撃するのみ! そのためには、一呼吸で三回の攻撃を繰り出すしかない。 無理難題とも思えたが、彼には心当たりがあった。 (一つだけある…完全無欠な、一瞬での三連撃が!) 脳裏に、一回戦で闘った彼女の姿が蘇る。 イメージすべきは、それだ。 「星熊勇儀―――!あんたの技を借りるぜ!」 強烈な踏み込みと共に、一人目の幽香の脇腹を右拳で撃ち抜いた。 間髪入れず、二人目の幽香の側頭部(テンプル)を左拳で砕く。 同時に、右のアッパーカットで最後の幽香を殴り飛ばした。 その一連の動きは、まさしく一回戦で自らがその身に受けた、あの奥義の再現だ。 「見様見真似―――<俺式三歩必殺>!」 吹き飛ばされた三人の幽香は折り重なるように倒れ、一人に戻った。 深いダメージを受け、分身が解けたのだ。 「…確かに分身なんてスゲー技だけどよ…それにゃ、致命的な弱点があった」 倒れたまま動かない幽香にゆっくりと近寄りながら、レッドは語る。 「戦闘力まで、そのまま複製できるわけじゃねー…一つの力を、複数に分散しちまうんだ。分身の数を増やせば 増やすだけ、一人一人は弱くなっちまう。そうじゃなかったら、それこそ百人に分身してりゃいいだけだもんな」 幽香は大地に倒れ、目を閉じたまま身じろぎ一つしない。 そんな彼女まで、あと一歩の距離までレッドは歩み寄った。 「三人になった時点で、相当にパワーもスピードもタフさも落ちてたはずだ。そんな状態なら、ある程度以上の力 と速度さえあれば、一瞬で全員仕留める事はそれほど難しくねー。今、俺がやったみてーにな」 「分かっていたわよ、そんな弱点…」 幽香が、口を開いた。 「分かっていて、どうしてわざわざそんな技を使ったと思ってるの…?」 「…………」 「待っていたのよ、サンレッド…勝利を確信して、あなたが油断する、その瞬間を!」 バネ仕掛けのように跳ね起きて。 がら空きになったレッドの心臓に向けて、右の貫手を突き出す―――! 「だろうな、俺だって分かってたよ…お前がこのまま終わるタマじゃねーって事くれーな!」 ―――幽香の手刀は、皮膚を貫く寸前で止められていた。 その細い手首は、レッドの手によってガッシリと掴まれている。 「ズアァァッ!」 全力の握撃。血管が潰され、肉が裂かれ、骨が砕ける。 悲鳴どころか、呻き声さえ上がらなかったのは流石の一言だった。 最後の策を見破られ、戦意を喪失するどころか、更に凶気を滾らせて幽香は吼えた。 左手に全てを込めて、殴りかかってくる。 みしり、と鈍い音がして、レッドの頭蓋が軋む。 更に踏み込み、小さな口を一杯に開いてその首筋に歯を突き立てた。 血飛沫が、端麗な少女の顔を紅く染めていく。 レッドの力が緩んだ隙に、手首を掴んでいたその腕を振り払う。 「これで、本当に最後よ…これに耐えれば、あなたの勝ち」 左手と、使い物にならなくなったはずの右手を合わせて、レッドに向けて砲門の如く突き出す。 残された全身全霊を、その一撃に込めて。 「マスタァァァァァァァァァァァァァァァァ!!スパァァァァァァァァァァァァァァァァクゥゥゥゥゥッ!!!」 咆哮と共に光が弾ける。 奔流はサンレッドを呑み込み、天へと向けて巨大な火柱を噴き上げた。 魂までも燃やし尽くすような爆熱の地獄で、しかし。 サンレッドは、全身を焼かれながらも立っていた。 炎を宿す眼光で、幽香を射抜く。 その瞬間―――風見幽香は、自覚した。 己の敗北を。 ググっと、レッドは弓を引き絞るように身体を後ろへ仰け反らせて。 幽香の額に、自らの額を渾身の力で打ち付けた。 グジャっ、と、トマトが潰れるような音が響く。 グラリと幽香の身体がよろめき、前のめりに倒れ込んだ。 審判・四季映姫がそれに駆け寄り、状態を冷静に見極める。 「風見幽香の戦闘不能を確認…」 長く激しい闘いに今、終止符が打たれた。 「白黒はっきり付きました―――勝者・サンレッド!」 「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!」 勝ち名乗りと共に、怒号のような大歓声が闘技場を埋め尽くす。 サンレッドが天を衝くように両手を掲げ、勝利の雄叫びを上げたのはそれと同時だった。 ―――天体戦士サンレッド・幻想郷最大トーナメント二回戦突破!
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悪の組織・フロシャイム川崎支部。 その一室に怪人達を集め、ヴァンプ将軍はいつになく引き締まった顔である。 「フロシャイムの精鋭達よ…次なる作戦を発表する!」 厳かに告げられた言葉に、怪人達はざわめく。次の瞬間、備え付けのモニターに画像が映し出された。 「これは…幼稚園の送迎バスですか?」 「そうだ―――これ以上は、言わなくても分かるだろう?」 そして悪の将軍ヴァンプは、非情なる命令を下した―――! 「決行の日は明日!我らは園児達を人質として、バスジャックを行う!」 ついに悪の本性を現したフロシャイム!今、園児達の悲鳴がバキスレに木霊する! …なんて展開にはなりませんので、読者の皆様方は今回も安心して、お子様にもお勧めのほのぼの牧歌的癒し系 小説<天体戦士サンレッド>を御堪能ください。 天体戦士サンレッド ~卑劣なる策略!悪夢のバスジャック事件 翌日。 送迎バスは園児達を乗せ、今にも出発しようとしていた。ここまでは普段通りだが、今日はここからが違う。 「はーい、みんなー。今日は本物の悪の組織の皆さんが、バスジャックにやってきてくれますよー」 「わーい!」 「どこどこ、かいじんどこー?」 「ほらほら、慌てないで。さあ、今から怪人さん達が来てくれますから、みんなで拍手しましょうねー」 引率の保母さんが、ドア横でそわそわしながら待機している連中に声をかける。 「それではフロシャイムの皆さーん、お願いしまーす」 「あ、はーい!」 いそいそとバスに乗り込むヴァンプ様、それに怪人達が続く。 「どうもー、私フロシャイムで将軍やってるヴァンプです。バスジャックなんて初めてで、ちょっとドキドキしてるけど、 今日は皆さん、仲良くしましょうね!」 わーっと拍手が巻き起こり、ヴァンプ様はぽっと顔を赤らめてモジモジするのだった。 「こちらこそよろしく、ヴァンプさん。それではバスジャック開始の挨拶をお願いします」 「はい、それじゃ…おっほん!このバスは我々フロシャイムが乗っ取った!命が惜しくば大人しくしていることだな ―――我々は子供であろうが、いざとなれば容赦はせん!」 子供達の間からは、どっかんどっかん大爆笑が起きた。完全に遊園地のアトラクション扱いである。 「あーコラ!命が惜しくば大人しくしろって言ったばかりじゃない、もう!」 「わー、ショーグンがおこったー!」 「こわーい!」 「わー!」 その時だった。怪人達の中から、歩み出る影があった。 「コラー!ヴァンプ様が大人しくしろって言ってるんだから、大人しくしなよー!」 「静かにしないと、今日がお前達の命日だよ!」 「おまえたち コロス」 「ふもっふー!」 そう、フロシャイムが誇る最強の殺戮集団・アニマルソルジャーの面々である。なお喋れないのでセリフはないが、 Pちゃん改もきちんといるのであしからず。 「わー、ぬいぐるみだー!かわいー!」 「ウサちゃんだー!」 「ネコちゃんとワンちゃんとトリさんもいるよ!」 「ボン太くんもいるー!」 「あたし、だっこするー!」 「じゃあぼく、ボン太くんにだっこしてもらうー!」 「ちょ、ちょっとやめてよ!大人しくしないとぶっ殺すって言ってるじゃないかー!」 子供達にあっという間に揉みくちゃにされるアニマルソルジャー。その有様に、ボン太くんの中の人は戦慄した。 (これがフロシャイムのやり方か…こうして幼い子供達に<フロシャイムは善良な悪の組織>だと刷り込みを行い、 彼らが大人になる頃には<フロシャイムになら世界征服されてもいいか>と思わせるのが目的…なんという遠大 かつ恐ろしい策謀だ!) 彼の脳内でのフロシャイム評価はウナギ登りだ。今、日本で最もフロシャイムを警戒している男といっても過言で ないだろう(他に警戒してる奴もいないだろうが)。 数分後、ようやく子供達をアニソルから引き剥がした保母さんは申し訳なさそうに頭を下げる。 「もう、この子達ったら…すいません。ヴァンプさん。折角バスジャックに来てくださったのに」 「いえいえ、いいんですよ。子供は元気が一番!ね、みんな!」 「んー…ヴァンプ様がそう言うなら…」 「だけど、こいつらが大人になったらぶっ殺すからね!覚えてなよ!」 「ヴァンプさま スキ」 「もっふー!」 ―――こうして、恐怖のバスジャックは幕を開けた。 バスはそのまま予定のコースを進み、お昼の時間となった。 「おなかすいたー!」 「せんせー、ごはんはー?」 「はいはい。今日はなんとヴァンプさんが、お弁当を用意してくれましたー!」 わー!と子供達から歓声が上がる中、ヴァンプ様がはにかみながらお弁当を配る。 奇麗な俵型のおむすびに、甘い味付けの卵焼き。タコさんウィンナーに手作りのミートボール。大好物ばかり で子供達は大喜びだ。 そんな園児達の姿を、保母さんとフロシャイム一同は微笑ましく見守っていた。 「ふふ…こうしてると、天使みたいに可愛らしいんだから」 「本当にねえ。この笑顔を私達大人が守っていかなきゃいけませんよね!」 (作者注:この御方は世界征服を企む悪の権化・ヴァンプ将軍です) その後もバスジャックは何事もなく予定通りにスケジュールを消化し、いよいよクライマックスを迎えた。 「さあみんな。今日のバスジャックはどうでしたかー?」 「たのしかったー!」 「ウサちゃんたち、かわいかったー!」 「お弁当、おいしかったー!」 「うふふ、よかったわね。それじゃあ最後に、ヒーローに助けに来てもらいましょう!」 「わーい!」 はしゃぐ園児達の前に、ヴァンプ様がにこにこ笑いながら最後の挨拶に向かった。 「えー、それでは不肖ながら、私が音頭を取りますよ。さあ、皆で川崎を守るあの人を呼びましょう!せーの!」 「「「たすけてー、サンレッドー!」」」 その声に応え、我らがヒーロー・サンレッドが颯爽と…否。鬱陶しそうに、ドアからのっそりバスに乗り込んだ。 なお、今日のTシャツは<まじこい>。意味が分からなくても、大きなお友達しか検索しちゃいけません。 「ちょちょ…ちょっとレッドさんったら!カッコ良く登場して下さいねってお願いしたじゃないですか!どうして 普通にドアから入ってきたりしちゃうんですか、もう…」 ―――この先はどう詳しく書いても<レッドさんが怪人全員ワンパンで昏倒させた>以外に書くことはないので、 割愛させていただくことにしよう。 こうしてフロシャイムの恐るべき計画は、我らがサンレッドの活躍によって食い止められたのだった。 正義と悪、双方の名誉のためにもそういうことにしといてあげて。 「―――ヴァンプさんにレッドさん、それに怪人の皆さん。今日は本当にありがとうございました」 「いえいえ。私達も初めてバスジャックをやらせていただいて、本当にいい経験になりましたよ」 「子供達も喜んでましたよ。次の機会もまたヴァンプさん達に頼もうかしら、うふっ」 「ははは、じゃあ次はもっと上手くジャックできるように練習しますんで。その時はレッドさんも、また協力して くださいね…いたっ!もー、どうして殴ったりするんですか!」 ヴァンプ様の抗議の声を無視し、サンレッドは一人、背中にヒーローの哀愁を漂わせつつ夕暮れの道を歩く。 (俺、このままだと一生ファイアーバードフォームなんて使う機会ないんじゃねーかな…) どうせなら決闘神話の方に出演したかったなどと思いつつ、レッドは虚しさを持て余すのだった。 ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
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かつて世界には、神より遣わされし蒼氷(そうひょう)の石が在った――― 古の聖者がその秘石を用い、炎の悪魔を封じた伝説――― それより千年。 解放の緋―――或る少女の血を受け、炎の悪魔は封印の蒼より解き放たれ、再びこの世に舞い降りた。 レコンキスタの鐘の音が響くイベリア半島。 人類同士の争いは、かの悪魔の出現により、人類と悪魔の聖戦へと変貌した。 更に千年――― 炎の悪魔<シャイタン>は、遥か東方の島国へ――― 「―――と、いう話なんだよ」 ここは何の変哲もない一戸建て(借家)。何を隠そう、世界制服を企む悪の組織<フロシャイム>の川崎支部で あることは、ご近所さんなら誰でも知っている。 居間のコタツでみかんの皮を剥きながら、川崎支部の最高責任者であるヴァンプ将軍は熱弁を振るう。 「けどヴァンプ様。このやたらシリアスな導入部が俺達に何の関係があるんです?」 「そうっすよ。」 せんべいを齧りながら戦闘員一号と二号が疑問を口にする。ヴァンプはそれに対し、こう答えた。 「うん、だからね。ウチに来てくれるの、その炎の悪魔さん」 「え…マジっすか!?」 「うっそー!なんで!?」 「なんでって…決まってるじゃん。ほら、レッドさん抹殺」 天体戦士サンレッド ~激突!太陽の戦士VS炎の悪魔! 天体戦士サンレッド。太陽の力でこの世を照らす(神奈川限定)正義のチンピラもといヒーロー。 周囲からは<フロシャイムとどっちが悪党か分からない>と評判である。 「シャイタンさん、日本で音楽やってる友達のコンサートにゲスト出演してくれって頼まれてさー。今日本に 来てるんだよ。でねー、ダメ元でアポ取ってみたんだけど」 「はあ…」 炎の悪魔と日本のアーティストとの間に何の関係が?とは思ったものの、一号はただただ頷いた。 「とりあえずウチに来て、話を聞いてくれることになったの。そこで改めて、レッドさんの抹殺をお願いする のね。何たって伝説の炎の悪魔だよ?伝説だよ、伝説!きっとレッドさんにだって勝てるよ!」 「そう上手くいきますかねえ?」 「だってホラ、アレだよ?神様から貰ったすごいアイテムを、すごい偉い聖者が使ってやっとこさ封印できた ってレベルの大物だよ。しかも千年前のイベリア聖戦じゃあ、たった一人で戦場に乱入して、それこそどこの 自由ガンダム?って勢いで暴れまわったんだから!」 拳を握り締めて力説する、我らがヴァンプ様である。顔を引き締め、威厳たっぷりに言い放った。 「ククククク…天体戦士サンレッドよ!太陽すらも焼き尽くす炎の悪魔の前に、燃え尽きるがよい!次こそは 貴様の最期の時だ!ワーッハッハッハッハッハ!…あ、一号君。コタツの温度上げてくれない?ちょっと足元 寒くてさ~…うん、強にしといて、強に!」 炎のように波打つ、紅い長髪。頭部には人ならざる異形の角。鋼をも容易に斬り裂く鉤爪。 身長2メートルを優に超える鋭い眼光のその男は、コンサートホールの前で溜息をついた。 「アーモウ…鎌仲ノ奴、コンナ立派ナ所デヤルナンテ聞イテナイヨー。ドッカショボイ会場デ内輪デワイワイ ヤルダケダト思ッテタノニ。アイツ、イツノ間ニコンナ人気者ニナッチャッタノサー。オ客サン大勢イタノニ コンナ普段着デステージニ上ガッチャッタヨ」 着古した紀元前物のレザージャケットを見下ろし、また溜息。 この男こそ、件の炎の悪魔・シャイタンである。 「出演者モ知ラナイ人多クテ、ジマサン位シカ我ノ知リ合イイナカッタヨ…アノ人、悪人ジャナイケドヤタラ唾トカ 汗トカ飛バシテクルカラ苦手ナンダヨナー…汗ッツーカアレハモウ汁ダヨ、汁…ン?」 前方に、地面にしゃがみ込んで何かを探している男がいた。 <其処にロマンはあるのかしら?>と書かれたTシャツに、短パン。 頭には真っ赤なヒーローっぽいヘルメット―――そう、彼こそが天体戦士サンレッドその人である。 「ドウカサレタノカ?」 「ん?財布落としちまったんだよ、財布!あーもう、やべーなあ…かよ子から小遣いもらったばっかなのによ。 おい、ワリーけどお前も探してくれよ!あれがないと今月パチンコできねーよ!」 「ヨカロウ。君ノ探ス物全テ、コノ腕デ見ツケヨウ」 一応言っておくが、シャイタンは千年前にイベリアを恐怖のドン底に叩き落した悪魔である。ヒーローと悪魔が 道端にしゃがみ込んで財布を探す姿は、なんというか、ただただシュールである。 「アッタ!アッタヨ、コレジャナイカ!?」 「おお!それだよ、それ!いやー、助かったぜ。ありがとよ。しっかし、長いこと探し回ったんで腹が減ったなー」 「フム。我モ小腹ガ空イタナ…」 「お、そうか。じゃあ財布見つけてもらった礼に、奢ってやるよ。あっちにいきつけのラーメン屋があるからよ、 ついでにビールでも飲もうぜ、ビール!」 しつこいようだが言っておく。 レッドは正義の味方であり、シャイタンは恐るべき炎の悪魔である。 「けどさー。そのシャイタンさん、炎の悪魔なんでしょ?下手したら同じ炎属性のレッドと仲良くなっちゃう可能性 もあるんじゃないっすか?」 「大丈夫だってー。何せシャイタンさんは伝説の炎の悪魔だよ?ヒーローと相容れるわけないよ。むしろ太陽の 戦士VS炎の悪魔なんて、いいキャッチコピーじゃない。劇場版みたいで!」 「うーん…まあそれはいいんですけど、本当にあのレッドに勝てるんですか?悪魔とかいうけどレッドの奴だって 鬼みてーに強いんですよ」 「心配性だなあ、もう…シャイタンさんはもうアレだよ。<不死身>なんだよ。何度も言うけど、神話の時代からの 生きた伝説なんだよ。もう存在としては神様に近いくらいなんだって。いくらレッドさんでも、神様には勝てないよ、 きっと」 ヴァンプは楽観的に、そう言ってのけるのだった。 ラーメン屋・宝来軒にて。 「へー。じゃあお前、そのライラって女に尻に敷かれちゃってるの?」 へらへら笑いながら、レッドはラーメンを啜る。 「仕方ナイジャン。我ハライラノオカゲデ封印解ケタンダシサ、人間ダッタアノ子ヲ我トノ契約デ、我ト同ジ存在 ニシチャッタンダシ、負目ガアルンダヨ」 熱々のラーメンをフーフー冷ましながら、シャイタンは答える。 「でもよー、大怪我したそのライラって女の血が、たまたまお前の封印されてた石だか何かに当たって封印が 解けたって言ってたけどさー。お前が助けてやらなきゃ、そいつ死んでたじゃん。それを助けて永遠の命まで 与えてやったんなら、むしろお前が感謝されてしかるべきじゃねーの?」 「…永遠ヲ生キルトイウ事ハ、残酷ダヨ。其レハモハヤ、苦イ毒ダ」 シャイタンは、深い苦悩を浮かべる。 「生ケトシ生ケル全テニトッテ、死ハ平等―――ナラバ、我ハ何ダ?冥王ノ定メニ抗イ、永遠ヲ生キル我ハ、 赦サレルノカ?」 「あん?」 「我ハ―――生キテイルト言エルノカ?」 シャイタンの手は、微かに震えていた。 「ライラニ永遠ヲ与エタノモ…彼女ノタメナドデナク…共ニ永遠ヲ連レ添ッテクレル存在ガ欲シカッタダケデナイ ノカ…?ソンナコトノタメニ、彼女ヲ…痛ッ!」 「なーにウダウダ管を巻いてんだ、オメーはよ」 シャイタンの頭にかました拳骨を握ったまま、レッドは語る。 「だってお前、ラーメン美味いだろ?」 「ウム…中々ノ味ダ」 「ビールだって美味いだろ?」 「…ウム」 だったらよ。レッドは仮面の上からでも分かる、爽やかな笑みを浮かべた。 「お前、ちゃんと生きてんじゃん―――それにその女だってきっと、お前のことを恨んだりしてねーよ。憎い相手 と、千年も一緒にいられるわけねーだろ…愛されてるじゃん、お前」 「レッド…」 「へっ!ガラにもねーこと言っちまったぜ。おい大将、ビールじゃんじゃん持ってこい!今日はトコトン呑むぞ! ほれシャイタン、カンパイだ、カンパイ!」 「…ソウダナ。今夜ハ呑モウ」 シャイタンはジョッキを持ち上げ、レッドのジョッキに軽くぶつける。 「新タナ友トノ出会イニ―――乾杯!」 「―――遅いっすねー。シャイタンさん」 「うん…アジトの地図は渡してあるんだけど、迷ってるのかもしれない。私、ちょっと見てくるよ」 ヴァンプがコタツから出た時、<ピンポーン>と間の抜けた音が響いた。 「あ、きっとシャイタンさんだよ!はいはい、今行きまーす!」 ドタドタと今から出ていき、意気揚々と玄関を開けたヴァンプ様が見たものは。 「よーヴァンプ。コイツ、お前のとこに用があるって言ってたから、案内してやったぜ」 赤ら顔でへらへら笑うレッドと。 「遅レテスマナカッタ。レッドト呑ンデタラ、コンナ時間ニナッチャッテサー」 彼と肩を組んでへべれけになっている、炎の悪魔シャイタンであった。 「…………あの、なんでレッドさんが、シャイタンさんとご一緒に?」 「あー。財布を落として困ってたら、コイツに探してもらっちゃってさー。宝来軒で食って呑んでの大騒ぎ! すっかり意気投合しちゃってなー。もうマブダチだよ、マブダチ!」 「ウン、我トレッドハマブダチー!」 けたけた笑う、すっかり出来上がっているシャイタンである。 「デ、ヴァンプ。我ニ用件ッテ何ダッタノ?」 ―――今更<炎の悪魔シャイタンよ!我らに歯向かう天体戦士サンレッドを抹殺するのだ!>だなんて言える はずのないヴァンプ様だった。 天体戦士サンレッド――― これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
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天体戦士サンレッド・剛力形態<ヒュペリオンフォーム>。 それはサンレッドの太陽闘気(コロナ)が極限にまで達した時にのみ装着される戦闘形態の一つ。 古の太陽神の名を冠するこのフォームの主眼に置かれるのはただ一つ―――<パワー>。 純粋な肉弾戦に関しては究極形態すら凌駕するヒュペリオンフォームを纏ったサンレッドは、まさに真紅の破壊神 となりて、あらゆる敵を打ち砕くのだ! 「―――なんつー、どうでもいい解説は脇に置いて…」 サンレッドは、右足を大きく上げて。 「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」 勢いよく大地を、踏み付けた。 その瞬間、闘技場が―――否。 世界そのものが、震えた。 ZUUUUUUUUNッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!! 『お、おおっ!?ゆ、揺れる揺れるっ!』 「あ、兄者ぁ!」 「コ、コタロウくん!イ、イスの下に隠れないと!」 「ええい、落ち着きなさい二人とも!」 「ま、まさかこの闘技場、耐震強度偽装してやがんのか!?」 「責任者出て来ーい!」 「ち、ちがぁうっ!このにとりが設計した闘技場はテポ○ンの直撃にも耐えうるはずなんだぁっ!」 そんな諸々のどよめきを余所に、レッドと勇儀は再び対峙する。 言葉は何もない。 二人とも、知っているのだ。 この闘いを語るのは、唯一つ―――互いの拳だけだということを。 「おおおおおおおおおっ!」 その咆哮は、絡みつく鎖から解き放たれた獣。 その躍動は、狭い鳥籠から解き放たれた翼。 放たれた豪熱の拳は、勇儀の身体を枯葉の如くに撥ね飛ばす。そのまま壁に激突するかに見えた瞬間に身を翻し、 壁を蹴って弾丸の如くレッドに迫る。 だが、レッドの姿は瞬時に消える。 「こっちだボケっ!」 虚を突かれた勇儀の背後に現れたレッドが、その背を蹴り飛ばす。 吹き飛ばされる勇儀を追って即座に跳躍し、追撃。 「甘いよっ!」 蹴り足を掴まれた。そのままミキサーの如き勢いでレッドの身体がブン回される。 「ぐっ…らぁぁっ!」 身を捩じらせ、足を無理矢理に引っぺがす。着地と同時に四肢の全てを駆使してのラッシュ。 勇儀もそれに応える。防御は微塵も考えない。一意専心、ただひたすらに拳を繰り出す。 天体戦士サンレッド。そして星熊勇儀。 二人の一挙手一投足ごとに、闘技場は激しく揺れ動いていた――― 「―――って、このままじゃ私達の方が危ないですよぉっ!」 コタロウと共にイスの下に潜り込んだヴァンプ様はいきなり泣き言である。 「確かに…これじゃ、闘技場がもたないぜ!」 「ああもう、にとりの奴!もっと頑丈に造りなさいよ!」 魔理沙達は魔法によって空を飛ぶ事が出来るので、揺れそのものは脅威ではない。 しかし頭上にパラパラと降り注ぐ瓦礫は、闘技場大崩壊という最悪の想像を喚起させるに余りある。 皆が一様に顔色を失くす中で、しかしジローと萃香だけは身じろぎする事なく闘いを見守っていた。 「冷静じゃないか、吸血鬼のボーヤ」 「…私には、彼の闘いを見届ける義務がありますからね。目を逸らすわけにはいかない」 「へ、カッコつけちゃってさ…しかして」 萃香は、サンレッドを見つめていた。 その瞳の奥には隠しきれぬ戦慄と驚嘆が浮かんでいる。 「何者なんだ、あいつは…勇儀が殴り合いであそこまで苦戦するなんて、今までなかったぞ」 「私とて初めて見ますよ―――彼の、あんな姿は」 ジローの額を、冷たい汗が滴り落ちる。 眼前で繰り広げられる闘いは、彼の想像を遥かに超えていた。 「サンレッドの戦闘形態…話だけは聞いた事がありましたが、まさかこれほどとは…」 ジローとて、伊達に吸血鬼として百年を生きたわけではない。 それこそ怪物としか形容できない存在ならば、いくらでも見てきた――― だが、彼をしたところで今のサンレッドに匹敵する程の力の持ち主となると、そうそう思い浮かばない。 <黒蛇>の異名を取る魔女がその魔力・知略・策謀の全てを駆使したとしても、もはやレッドには届くまい。 今は亡き<聖騎士>や世界の敵と成り果てた<舞踏戦士>ですらも、己の肉体一つでここまでの闘いは出来ない だろう。 月下最凶の狂戦士<緋眼の虐殺者>だろうと、この闘争に割って入れるだろうか? 吸血鬼の原初にして原点なる<真祖混沌>の直系―――<東の龍王>や<北の黒姫>であっても、純粋に戦闘 能力というだけならば、レッドの後塵を拝する事になるやもしれない。 或いは<鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼>ハートアンダーブレードなら? もしくはどんな二つ名を付けた所で形容など到底不可能な、ただただ驚異と畏敬を以てその名を語られる者――― 究極にして至高にして無比なる吸血鬼・アーカードは? ―――その誰であっても、レッドに勝てるかと問えば、即答はできない。 「間違いなく、言い切れますよ―――彼は…サンレッドは、私が知る限り最強の男だ」 「だったら…勇儀だって私の知る限り、最強の女さ」 萃香の声に、不思議と揺らぎはない。 ジローがレッドを信じるように、彼女もまた、勇儀を信じている。 親友(とも)の力を、誰よりも信じているのだ。 「あいつが…あの勇儀が、負けるかよ…!」 ―――生まれた時から、あたしは力が強かった。 まだほんの小さな子供の頃から、既にあたしはそこいらの大人の鬼に負けないくらい強かった。 皆、褒めてくれた。 すごいって言ってくれた。 嬉しかった。誇らしかった。 だから、もっともっと強くなって、もっともっと褒めてもらいたかった。 そんなあたしが大人になる頃には―――誰一人、あたしに敵わなくなっていた。 ケンカなら勝ったり負けたりの萃香が相手でも、腕相撲ならあたしは一度も負けた事はない。 天下無双の怪力の持ち主<力の勇儀>。 いつしかあたしは、そう呼ばれるようになった。 相変わらず、皆はあたしを称えてくれる。 星熊勇儀は鬼の誇りだと、誰もが口々に語った。 嬉しかった。誇らしかった。 だけど―――少しだけ、寂しかった。 もう誰も―――あたしと真っ向から力勝負してくれる奴は、いなくなったからだ。 真正面から、拳と拳だけで語るようなケンカは、あたしとは出来なくなったからだ。 <力>という一面だけであっても頂点に登り詰めた気分は、悪いものじゃなかったけれど――― だけど、退屈で。 少しだけ、寂しかった。 だけど―――今は退屈も寂しさも、何も感じない。 絶えて久しいはずの燃えるような高揚感が、あたしの全身全霊を支配している。 拳が目の前だ。 己の存在、その全てを乗せるような重い拳だ。 あたしもまた、己の全てを乗せて拳を振るう。 拳骨二つがぶつかった。知らない間に身体に埋め込まれた爆弾が一斉に起爆したような激しい衝撃が襲う。 けれど、痛みよりも強く感じるものがあった。 歓喜。 そして、感謝だ。 『大地が揺らぐ!天が震える!二人は今まさに闘う震源地と化したぁ~~~~っ!この人力大震災を生き残るのは 星熊勇儀か!?それともサンレッドか!?』 実況が何か言ってるけど、上手く聴き取れない。 そんな事より、今はこの闘いだ。 サンレッド―――あたしはあんたを、心の底から尊敬する。 そしてあんたに感謝する。 よくぞここまで―――拳一つで、あたしに付き合ってくれた。 馬鹿正直に、力と力だけで勝負をしてくれた。 真正面から、ぶつかってくれた――― 「でもさ…それはそうとして、勝ちを譲るつもりもないよ」 勇儀は両の脚でしっかりと地を踏み締め、両の拳を組み、突き出す。 組み合わさった拳に、全妖力を集中させていく。 「譲ってくれなんて言ってねーよ。ブン取ってやらあ」 レッドは左足を前に半身に構え、弓矢を引き絞るように右手を引く。 その右拳を中心に、太陽闘気を熱く、激しく燃焼させる。 地鳴りが止んだ。 嵐の前の、微かな静寂のように。 『ふ…二人の動きが止まりました!あの構えから、一体どんな技が繰り出されるのか!?二人の、そして闘技場の 運命や如何に!』 ―――そして。 両雄、同時に動いた。 全身をバネに変えて疾駆し、己の全てを凝縮させて組み合わせた両拳を、真っ直ぐに撃ち込んだ。 「超力業―――<大江山崩(くずし)>!」 対して、サンレッドは左足を更に大きく踏み込ませて。 足の指先から足首、膝、股関節、腰、肩、肘、手首までの全細胞を総動員し。 渾身の力と闘気を込めた右拳を、勇儀の両拳に叩き付けた。 「太陽神拳―――<ヒュペリオン・クラッシャー>!」 どういう具合か、激突の瞬間には、予想されていたような地震は起きなかった。 ただ、輝いた。 二つの超級闘気のぶつかり合いは、日の落ちた世界を一瞬、太陽のように眩く煌かせた。 その光の中で。 「…っくっ…!」 勇儀の両拳が弾き返され、態勢を崩す――― その時既に、サンレッドは追撃の準備を終えていた。 今度は先程と、完全に真逆の体勢――― 右足を前に半身に構え、弓矢を引き絞るように左手を引く。 「いくぜ、もう一発―――!」 白熱の閃光が、再び世界を照らした――― ―――光が消えた時、そこには勝者と敗者がいた。 爆心地と化した闘技場中央。 敗者は勝者の肩にもたれかかり、どこか満足げに息をついた。 「あー…負けちった。カッコわりー」 「…んなこたーねーよ」 「あんた、最高にカッコいいぜ―――星熊勇儀」 「はは…勝った奴が負けた奴を褒めるんじゃないよ。余計に惨めになるだろうが」 「何だよ、じゃあ思いっきり心を抉る悪口かましたろか、コラ」 「うわ、それはそれでやだな…」 ははは、と勇儀は、爽やかに笑ってのける。 「まあ…次からも頑張れよ、サンレッド。幻想郷は…あたし以外も、強い奴ばっかりだからさ…」 ぐらり―――と。その肢体がよろめいたかと思うと、勇儀は滑り落ちるように大地に倒れ込んだ。 (…ごめん、パルスィ。せっかく御守り作ってくれたのに…ダメだったわ…) それは、誰にも聞こえる事のない、小さな独り言だった。 審判である四季映姫・ヤマザナドゥが即座に駆け寄り、そして、その手を高々と掲げた。 「白黒はっきり付きました―――勝者・サンレッド!!!」 大歓声が巻き起こった。 サンレッドの名を呼ぶ者がいた。 星熊勇儀を称える者もいた。 勝者にも敗者にも分け隔てなく、偉大な二人の戦士に対して、ただ心からの声援と拍手が送られたのだった。 ―――天体戦士サンレッド・幻想郷最大トーナメント一回戦突破!
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仮○ライ○ーとかが闘っていそうな、人里離れた岩山。そこは地獄と化していた。 辺り一面に散らばる残骸―――<アームスレイブ>と呼ばれる巨大人型兵器のなれの果て・およそ十機分―――と、 半死半生で地を舐める無数のヒーロー。 その中心で、一人の男が嘲笑する。 「ハッ…地上の兵器やらヒーローってのは、こんなにも脆いのかよ。これじゃはるばる魔界から来た甲斐がねえな」 銀色に輝く、傷一つない超金属のボディ。精悍な顔には己の力に対する揺るぎない自信が溢れている。 「これでこの辺りのヒーローやら正義の組織はあらかた潰したな…さて」 そして、奴の次なる目的は――― 「今度は川崎…天体戦士サンレッドの首を貰うぜ」 「う…うう…」 倒れ伏すヒーローの中の一人が、呻きながら顔を上げた。 「お…お前は一体…何者なんだ…」 その問い掛けに対し、男は不敵に笑った。 「オレの名はヒム―――やがては世界を征服する男だ。覚えときな」 突如現れた謎の超戦士・ヒム!我らがサンレッドはこの強敵に勝てるのか!? 「オラァッ!」←レッドさんはせいけんづきを放った! 「グハァッ!」←ヒムに99999ポイントのダメージを与えた!ヒムを倒した! ―――そんな僕たち凡人の心配なんて何処吹く風。レッドさんはヒムをあっさりワンパンKOして、今日も世界を 守って下さったとさ。めでたしめでたし。 天体戦士サンレッド ~魔界からの刺客!超金属戦士ヒム登場 「…………」 自宅(駅から徒歩10分・家賃3万円・フロなしの安アパート)で布団に寝転がり、ヒムは茫然と天井を見つめる。 「チクショウ…何なんだ、あいつは…あんなん魔界にだっていなかったぞ」 ケンカだけは、誰にも負けた事がなかった―――<タコ殴りのヒム>の名を聞けば、魔界の誰もが震え上がった。 それなのに、このザマはなんだ。 「くそっ!くそっ!くそっ…!」 負けた悔しさと自身への情けなさに、涙が滲む。 「こんなんじゃ…こんなんじゃ、快く魔界から送り出してくれた皆に、申し訳がねえっ…!」 ヒムは、思い出していた。 魔界で待つ、大切な仲間達の事を――― ―――数ヶ月前・魔界。ハドラー製鉄所(株)にて。 「ヒム…お前、本気なのか?ここでの仕事を辞めて、地上に行くって」 「何を考えておるんだ!それがどういう事か分かってるのか!?」 「ブローム!(訳:同じような事を言って北海道に旅立ち、アバシリンとかいうヒーローによってこれ以上はない ほど惨たらしく殺られたフレイザード先輩を忘れたのか!?)」 仲間からの糾弾に、ヒムは唇を噛み締める。 「自分勝手は分かってる…だけど、オレはどうしても世界征服の道を歩みたいんだ!」 「バカ野郎!」 「グッ…!」 手加減なしの一撃だった。 「お前はハドラー社長から受けた恩を忘れたのか!?この魔界始まって以来の就職難の時代に、中卒でケンカ しか取り柄のないワシらを雇ってくれた社長に対してどう言い訳するつもりだ!」 「そうだ!社長の奥さんだって、親からも見放された我々みたいな不良に、まるで本当の母親のように優しくして くれたというのに…」 「ブローム!(訳:そうだそうだ!アルビナスさんの作ってくれたナスの味噌汁を思い出せ!)」 「うっ…」 ヒムは後ずさり、顔を背ける。そのまま皆に背を向けて走り去った。 「すまん…すまん、皆!」 「あ、ヒム!」 「待つんだ、ヒム!」 「ブローム!(訳:…皆、もうほっとけ!)」 「し、しかし…」 「ブローム…(訳:あいつだってもう子供じゃないんだ…社長やアルビナスさんへの義理を忘れたわけでもないさ。 それでも、あいつは夢に生きる事を選んだ…仕方ない) 「…………ヒム…」 「くそっ…あのバカ…」 ―――翌日・魔界駅前。 「ハドラー社長…それに奥さんまで本当にすいません。見送りにまで来ていただいて…」 「そんな顔をするな、ヒム」 頭を下げるヒムに対し、ハドラー社長は優しく肩に手を置いた。 「オレにも覚えがある…世界征服の野望を胸に抱いた、若かりし頃が…ふふ、だからかな。今のお前を見ていると、 昔のオレを思い出してしまうんだ」 「社長…」 「ほら、受け取ってくれ」 差し出された封筒。中を覗くと、福沢諭吉が十枚。 「少ないが、退職金だ」 「そ、そんな…!突然仕事を辞めて迷惑かけたのに、こんなの受け取れません!それに…それに…!」 ヒムは知っていた。ハドラー製鉄所(株)は現在、大手取引先のバーン商事(株)やヴェルザー社(株)から受注を 減らされ、更にはアバン鋼業(有)といったライバルの台頭により、経営が決して楽ではない事を…。 しかし、そんなヒムに対してハドラー社長は豪快に笑い飛ばした。 「なあに、お前が世界征服に成功したら、この貸しは世界の半分で返してもらうからな。ハハハ」 「全く、何を言ってるんですかあなたは…ヒム。これを電車の中で食べなさい」 社長の奥さんが差し出した包みの中には、大きなおにぎりが三つ入っていた。 「辛いこともあるでしょうが、挫けず頑張りなさい。私も応援していますよ」 「奥さん…!」 ヒムは大粒の涙を流しながら、何度も頭を下げる。やがて発車のベルが鳴り響き、ヒムは地上へと旅立っていった。 電車の中でおにぎりを頬張りながら、ヒムは窓の外を眺めていた。 (さよなら…魔界) そんな時だった。 「え…あ、あれは…まさか、そんな…!」 土手の上で手を振っている三人の男。紛れもなく、ヒムの仲間達だった。 「ヒムー!都会に負けるんじゃないぞー!」 「ワシらの事を忘れるなよー!」 「ブロームー!(訳:ヒムばんざーい!)」 「お…お前ら…」 ヒムの目に、熱い涙が込み上げる。それは彼の頬を優しく濡らした。 「世界を征服したら、オーストラリアをよこせよー!」 「ワシにはハワイとグアムをくれよー!」 「ブロームー!(訳:エジプトはオレのモンだー!)」 「へっ…バカ野郎!アメリカだろうがヨーロッパだろうがくれてやるぜ!」 ヒムは泣きながら、笑顔で手を振り返す。素晴らしき友の姿が見えなくなるまで、ずっと――― パシン!とヒムは自分の頬を叩き、挫けかけた心に喝を入れる。 「そうだ…もうオレの夢だけじゃない…オレの肩には、あいつらの想いも乗っかってるんだ!」 力一杯に玄関のドアを開け、外へと飛び出す。 「強くなる…オレは強くなって、必ずあの赤マスクを倒し、先へ進む!」 ヒムの眼には、熱く燃える炎の輝き。 それは彼が秘める、不屈の魂の証明だった。 それから、一週間が過ぎて。いつもの公園。 レッドさんはいつものようにフロシャイム怪人をボコってヴァンプ様達を正座させて説教していた。 今回のTシャツは<オリハルコン>である。 「お前らはホント懲りねーなー、ヴァンプよ」 「ええ、まあ…懲りちゃったら世界征服の野望も終わってしまいますし」 「終われよ、どーせできっこねーんだから」 「いえ、一念岩をも通すと言いますし。諦めたら夢はそこまでですよ」 「言う事だけはいっちょまえなんだからなー、お前ら…」 レッドがはあー、とわざとらしい溜息をついた時、その男はやってきた。 「久しぶりだな…サンレッド!」 「ん?あれ、お前…」 そう。超金属戦士・ヒムである。レッドとて、彼の顔は覚えていた。 「知り合いですか、レッドさん?」 「ああ、こないだ話しただろ?先週いきなり襲ってきた金属野郎だよ」 「へー。というと、もしかしてキミもレッドさんの命を?」 「その通りだ。前回はブザマにやられちまったが、今度はそうはいかないぜ」 「ほー。そりゃ楽しみだ。そうまで言うからには、ちょっとは強くなったんだろうな?」 「へっ、調子に乗ってられるのも今のうちだ。先週までのオレとは違うぜ!山籠りの成果を見せてやる!」 具体的に言うと、ふさふさのロンゲになっていた。 原作<ダイの大冒険>を読んだ方なら、どのくらいパワーアップしたのか説明せずとも分かるはずだ。 サンレッドもその気配を感じ取り、にやりと笑って指をポキポキと鳴らした。 ヴァンプ様をはじめとするフロシャイム一同は、激闘の気配にごくりと唾を呑んだ。 ヒムは大きく息を吸い込み、天を仰ぐ。 (皆、見ていてくれ…オレの闘いを!) そう。行く手にどんな苦難があろうとも、彼はその道を真っすぐに進むだろう。 彼の胸に、夢という名の光が宿っている限り――― ―――天体戦士サンレッド。 これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である! …え、勝負の結果ですか?可哀想で書けませんよ、またしてもワンパンKOされたなんて…。